2014年8月19日火曜日

「ネットワーク科学 つながりが解き明かす世界のかたち」で物の見方を広げてみる

ネットワーク科学 (サイエンス・パレット) 

ネットワークをキーワードにさまざまな現象をとらえていくネットワーク科学について概説した本。

ネットワークっていうと、インターネットみたいなものをまず想像するけど、結構概念はいろんなところに適用可能。もちろん、情報工学的な話も入っているけど、それだけでなく、社会学的な人間関係のネットワーク、生物学的な食物連鎖や神経回路のネットワーク、経済学的な貿易関係のネットワークとか適用範囲は結構幅広い。

その他にも医学における公衆衛生や伝染病とか警察と軍隊に置ける犯罪者やテロリストのネットワークとか、いろんな分野でネットワークの考え方は適用できる。この捉え方は面白いなーと思った。

いくつか特に印象深かったトピックが以下。

■マタイ効果
社会学者のロバート・マートンが定式化した法則。科学者に関する表彰、研究資金、知名度、名声等の配分は、多くをすでに持っている人がより多くを持つというもの。新約聖書のマタイによる福音書の一節にちなんでいてそれが以下。

「おおよそ、持っている人は与えられて、いよいよ豊かになるが、持っていない人は、持っている者までも取り上げられるだろう」(p116)

これが適用されるのが、例えば科学論文の引用数。発表後ある時点までにたくさんの引用を受けた論文はその後もさらに引用数が増えていくのに対し、発表後すぐにあまり引用されなかった論文はその後も引用が増えないという。

このへんはPRとか製品の認知度とかとからめて考えてみたり。リリースを打った後にすぐに一定数記事になったらその他の記事も増えやすかったり、逆に何も載らなかったらますます記事になりにくかったりとかないかなーと思ったり。

■3次の法則
「人の幸福度は直接つながってはいない人たちの幸福度の影響を受ける」(p144)

ネットワークで離れている人でも3次の隔たりまでは影響を受ける
 2ステップ離れた人(友人の友人)からの幸福度の影響…約10%
 3ステップ離れた人(友人の友人の友人)からの幸福度の影響…約6%
 4ステップ離れた人からの幸福度の影響…なし

情けは人のためならずを実証しているというか、結局周りの人を幸せにすることが自分の幸せにも影響しているっていうことかと。

■アメリカの政治に関するブログの分析
物理学者のラダ・アダミックの分析。民主党支持者のブログと共和党支持者のブログはきれいにネットワークが分離している。

自由主義派のブログのネットワークは保守派のブログのネットワークよりまとまりが低い
例:人工妊娠中絶の是非を主題とするブログ
賛成派のブログ同士よりも反対派のブログ同士の方がより密につながっている
→ネット上の組織的運動は賛成派よりも反対派の方が簡単に広がりやすい。

このへんは、ネガティブな意見の方がよりまとまりやすく広がりやすいっていうのもあるのかなーとも思ったり。

■路線図
地下鉄等の路線図は、実際の距離は無視して、駅のつながりだけを模式化して記載してある。

これは
「ネットワークにおいては、距離よりもトポロジーが重要である」(p25)
から。

駅と駅がどれだけ離れているかということよりも、どの駅とどの駅がつながっているかの方が重要。

「物理的な地形は、「ネットワーク的な地形」に比べれば重要ではない」(p25)

ということで、この考え方もいろいろ適用ができそうで面白いなと思った。

IT業界に身をおいていると、ネットワークというと、どうしてもルーターとかそういうイメージをしてしまいがちでわりともう定まっていて広がりが薄いものに感じてしまいがちやけど、情報通信に限らず他の分野でも通じる物の見方が得られると捉えれば広がりがあって面白みが増すかなーと思った一冊やった。