リトル・ピープルの時代
「1Q84」をはじめとする村上春樹作品と、ウルトラマンや仮面ライダー等のヒーローものとが並んで分析されていて意表をつかれたような感じがするけど、著者が論じているテーマを見ていくとなるほどなーと思うところも結構あった。
大きなテーマとしては、ビッグ・ブラザーからリトル・ピープルへという流れ。
ビッグ・ブラザーっていう言葉で表しているのは、世の中を決定付けるようなシステムとか仕組みのことで具体的な例としては、国民国家やマルクス主義。
リトル・ピープルっていう言葉で表しているのは、ビッグ・ブラザーのような巨大な単一のものに決定付けられるのではない無数の小さなもので、それらが乱立する世界になってきたということ。
ここ数十年で、ビッグ・ブラザーをベースにした世界からリトル・ピープルをベースにした世界に移り変わってきていて、そのテーマが村上春樹作品にも表れ、ウルトラマンから仮面ライダーシリーズの変遷にも反映されているという話。
特に、ヒーローものの分析が面白かった。
ウルトラマン
- ビッグ・ブラザー的、近代的なヒーロー
- ウルトラマン、ウルトラセブンの物語構造がサンフランシスコ体制の比喩として機能 p367
- 絶対的な外部=光の国から来た巨人
- 「ここではない、どこか」から来たものが重要
仮面ライダー
- リトル・ピープル的、ポストモダン的なヒーロー
- 世界の内側から生成した存在、カルト的な秘密結社によって昆虫の力を移植された改造人間
- 超越者による状況介入ではなく、同格の存在同士の構想として「ヒーロー」の戦いを再定義
- 「いま、ここ」にあるものが重要
中でも、平成仮面ライダーシリーズ第3作「仮面ライダー龍騎」はリトル・ピープル的状況をよく表している。
見たことないけど、なんと、13人の仮面ライダー同士のバトルロワイヤルで、生き残った最後の一人が望みを叶えられるという設定らしい。
著者の言葉をひくと
「そこには基本的に「悪」は存在しない。存在するのは13通りの、いやそれ以上の(n通りの)「正義」だ。」(p263)
「ビッグ・ブラザー(ウルトラマン)の死んだ後に、リトル・ピープル(仮面ライダー)たちのバトルロワイヤルが始まったのだ。それぞれの小さな正義/悪=欲望を掲げ、戦っていこ残るために。」(p264)
じゃあどうしていくかという時の可能性として国内のポップカルチャーを想定している。
「グローバル/ネットワーク化を背景に、<ここではない、どこか>を捏造するのではなく<いま、ここ>を多重化し、拡張する方向に進化してきた。」
この方向性の是非や細かい論旨へのツッコミは別として、この本の視点は面白かった。
0 件のコメント:
コメントを投稿