2014年6月23日月曜日

「精神障害者枠で働く―雇用のカギ・就労のコツ・支援のツボ」の感想

精神障害者枠で働く―雇用のカギ・就労のコツ・支援のツボ  

今現在直接的にこういうことに携わっているわけではないけど、雇用の多様性を考えていく際に参考になる視点が得られるかなと思って読んでみた。

読んでみたら予想以上に良い本やった。何が良かったかというと、このテーマに限らずに組織づくりやチームビルディングといった視点では共通的に参考になる話がたくさんあったこと。それは冒頭の著者のメッセージにも表されている。

「第一に精神障害者の雇用を検討している企業、および精神障害者枠での就労を考えている精神障害者やその支援者、関係者に読まれることを想定しているものであるが、すぐには精神障害者の雇用を考えていない一般の事業所に勤める人にも広く読んでほしいと思っている。
なぜなら、本書に登場する企業に共通する、働く人を温かく受けとめる雇用のあり方は、一般の事業所においても今必要とされていると思うからだ。
即戦力や効率性を追い求め、そこに至らない社員は切り捨てていく。そういう職場では、生き残った人々も結果的に疲弊していくばかりなのではないだろうか。
従業員の弱点を受容し、長い視点で育てていくことで、結果的に従業員全体にとって働きやすい組織ができあがる。そのことを、本書に取り上げた各企業から肌で感じとってきた」(p2-3)

2014年4月発行と新しい本で、冒頭に今後の動向について整理されているけど、2018年4月から、企業が雇用すべき障害者の範囲に正式に精神障害者も含まれるようになったということ。恥ずかしながら知らんかった…

これを義務ととらえるかチャンスととらえるかは企業や人によって様々やと思うけど、この本では積極的に機会を活用していっている会社の事例が豊富に紹介されている。

1つ1つの事例はさらっと資料等をまとめたような内容ではなく、内容もかなり充実している。おそらく1社1社取材に行っていて、丁寧に整理されていて著者の想いが伝わってくる感じがした。

いろんな企業が紹介されているけど、1社目で紹介されているのが、神奈川県大和市の会社で社員数なんと15名の武藤工業株式会社という金属や機械加工の会社。

もちろん大企業の特例子会社みたいな例も後の方で紹介されているけど、まず1社目にこの会社を持ってきたねらいがある気がする。おそらくは「うちは中小企業だから…」「うちの規模だと難しいよね…」みたいな声に対するカウンターパンチではないかなという気もした。

雇用にあたっての考え方としては、単に社会貢献とか福祉的な意味合いだけではなく、もっと別の視点でも大きな意義があり、企業にとってもメリットがあるということを述べている会社も多い。例えば以下のような話など。

「いろいろな人がいろいろな価値観を持って働く過程を経てこそ、新たなものが生まれたり、互いの姿勢から何かを学んだりといったことが出てくるものです。だから、我々がこうしていろんな人と一緒に働いているということは、とても意味があるんです」
また、畠岡さんは、理念上の意味だけではなく、精神障害者を受け入れることで、組織全体にも具体的にメリットが生じることを、次のように説明してくれた。
「従来の環境なら、一緒に仕事をすることが難しかった人を受け入れて、その方がどうやったら上手く仕事ができるかをチーム全体で模索する。そうすることで、結果的にはチーム全体の効率や処理能力が上がるということが、実際に起こっています。それまで各自ばらばらの方法でやっていたことを、障害者が来たことでさらに細部まで見なおした結果、もっとよい方法を見つけることができるようになるからです」
その具体的な例として、日本イーライリリー主催の講演会などで、参加する医師に渡すタクシーチケットの手配の仕事のエピソードを紹介してくれた。ある当事者は、ミスすることへの不安から、とても確認の作業が多く、通常なら1回か2回の確認ですむところを、5回、6回と確認せずにいられなかった。すると、どうしてもほかの人よりずっと長い時問がかかってしまう。そこでその不安を取り除く方法を検討。タクシーチケットのチェックが必要なところだけに穴をあけたシートを作成して、確認を容易にするためのプロセスを作り上げた。そういった一つひとつの試行錯誤がチーム全体にも応用され、結果的には効率のアップにつながっていった。」(p30)

「統合失調症の方の特性として、どうしても注意が一つのところに定まらなかったり、あるいは道に一点に定まりすぎてしまったりという傾向があります。物事の順序をつけるのも苦手な場合があり、たとえば掃除にしてもどこからどの順番で進めればよいのか、わかりにくくなってしまうことがあります。ワーキングメモリーの障害といって、いわれたことが頭にすぐに定着しないことも起こりがちです。そういう場合は、手順をわかりやすく示すのが有効で、当院でもジョブコーチが掃除マニュアルを作って、当事者の方が働きやすいように配慮したところ、うまくいった例がありました。
ただ、この経験から感じたのは、一人ひとり特別なマニュアルを作るというよりも、初めてその仕事をする人が誰でも理解できるようなマニュアルを作れば、あとから来る人もそのマニュアルで事足りるということです。誰もが参考にできるマニュアルを作るということは、雇用側にとっても、それまでフィーリングでやっていた仕事のやり方が、マニュアルを整備することで明確になる。そういうよい作用を及ぼすことも結構あります。」(p165)

上記と似たような話は、日本でいちばん大切にしたい会社にもあったと思うけど、こういう仕組み化の契機になるということでお互いにメリットがあるということ。

あと、これを読んで「キレイゴトぬきの農業論 」 の話も思い出した。スキルや体力等が不足していく中でどうしていくかを考えていったからこそ工夫につながっているというような話があったけど、無いものや欠けているものにとらわれてネガティブに考えて終わらずに、それをどうやってうまいことカバーするかを考えると、全体的にはプラスにできることもあると思う。

また、会社としての姿勢を表わすメッセージにもなり、それは他の社員にも良い影響を与えていくという話も紹介されていた。

「長嶋さんは、富士ソフト企画の社長を務めるようになってから、この社会は健常者だけの社会ではなく、実に多くの障害者が生きている社会であるということに改めて気がついたという。その認識のもと、長嶋さんは障害者に対する理解を深め、バリアフリーの世の中を実現する観点から企業経営をしていくことの必要性を感じている。
「なぜなら、取引先の社長さんや営業部長の家族に障がい者や発達障がいのお子さんがいることは十分ありうるからです。今の時代は、地球にやさしく人にやさしい企業でないと、本当の意味で生き残っていけない」と長嶋さんは話す。
そのためには、まずは自社できちんと障害者を雇用する。そうすることで、ほかの社員からも、「この会社にはハンデがある人にもきちんと対応する恵まれた環境がある」と、モチベーションが上がっていく好循環が生まれていく。」(p121)

以下の話なんかも非常に印象的。

「比較的精神的圧迫の少ない業務を他人のために切り出す制度は、当初、社内から強い反発を受けた。会社員というのは、1日のなかでやるべき業務を見渡した時、神経や頭脳を使う負荷の重い業務と、比較的肩の力を抜いてできる負荷の軽い業務がある。そして、重い業務の間に軽い業務を挟み込むことで、1日のバランスを取っている。
ドリームポイント制を導入したときに起こった反発は、そのバランスを崩されることに激しく抵抗したものだった。実際にそれが原因で辞めた女性社員も2人いた。しかし今では、そのときに反発した他の女性社員も、子どもができ、業務を軽くするために切り出された仕事に従事する側になるなど、社内のコンセンサスが取れているという。」(p156)

なんというか、毎日の業務でいっぱいいっぱいで忙しいと、相手に対する想像力というか考える余裕とかを無くしてしまいがちやけど、そういう時に、自分がその立場だったらどうやろうか…というのを考えていくことが大事やなと改めて感じた。

タイトルから福祉系の本として見てしまっていたけど、そこにとどまらない内容。一社員の視点でもマネジメント視点でもいろんな立場にとって参考になる視点がある良い一冊やった。

0 件のコメント:

コメントを投稿