2015年4月22日水曜日

「ファーストペンギンの会社 デジタルガレージの20年とこれから」の感想

ファーストペンギンの会社---デジタルガレージの20年とこれから  
表題どおり、デジタルガレージの歴史についてつづった本。著名な会社ではあるし、事業についてはいろんなところで耳にするけど、詳しい歴史については今まで知らなかったのと、インターネットの歴史と会社の歴史が重なっていていろいろと勉強になった。

1つ印象に残ったのがツイッターの話。デジタルガレージがツイッター社に出資し、日本での普及の推進を担ったということやけどその中でツイッターの担当者の方がミートアップ(オフ会)に積極的に参加したというエピソードが印象的やった(p59)。ツイートを「つぶやき」と訳したのはユーザーの声を参考にして決めたという。

あとはイノベーションの今後についての伊藤譲一さんの洞察も興味深かった。「ソフトウエアで起こったイノベーションコストの劇的な低下が、ハードウエアにも及び、そして、バイオでも起ころうとしている」(p81)ということ。これだけやとふーんっていう感じやけど、具体例がいくつも挙げられていて、時代がそこまで進んでいるのか〜と思わされる話がたくさんあった。

仕事柄ソフトウェアの話はよく聞くし触れる機会も多いけど、ハードやバイオについては普段はなかなか意識しない。しかし、ハードの世界でもアジャイル的な開発が進んでいて、中国の深圳の工場では毎週のように新しいモデルの携帯電話を作って露店で売って反応をみて、よりコストパフォーマンスが高い携帯電話を生み出していっているとのこと(p101)。

もう1つ結構印象に残ったのが、分子生物学者のジョージ・チャーチという人が遺伝子工学について書いた本の話。本の情報をエンコーディングして遺伝情報に置き換え、それをバクテリアに入れて70億個に培養したという。そうすると全世界の人に1冊分ずつの情報が行き渡るだけのバクテリアの遺伝情報ができたということになり、バクテリアの遺伝子解析をすると本の情報を取り出せるという。

これの何が良いかというと、複製にかかるエネルギーがかなり少なくてすむのと、記録密度がハードディスクより高いということ。遺伝情報を解析してデジタルデータに戻すコストがまだかかるけど、そこのコストはどんどん下がっているということで、遺伝子を使ったビデオレコーダーみたいなのが登場してもおかしくないくらいリアルな話ということ(p134)。

「バイオの研究があまりにも急速に進んでいるから、メディアも追い付けていない。研究者たちも、研究に一生懸命で忙しいから説明できていない。でも、これが現実なんだ」(p135)

その他にも「コンテクスト(文脈)」(p182)が大事で、その裏にあるデータベースやビッグデータの情報をコンテクストに応じて提供していければ会社は繁栄できるっていうのは、先日CEOが言っていたことともかなり近くて興味深かった。

他にも教育に関する話も。

「現在の教育は、テストによって所定の学力があるかどうかを判断して学位を与えるような文化だけど、これはあくまでも個人個人の知識レベルを測っているだけで、他人との協調性などを評価することはできない。実際には、みんな携帯電話を持っていて、いつでもどこでもウィキペディアを検索できるのだから、知識を詰め込むことの重要性は薄れている。セーフキャストのようにこれからは、必要な時に必要な情報や協力者を見つけ出して価値を生み出すことが重要になる。それには、プロデュース力や、考える力、適切な質問をする能力などが必要となる」(p106)

「知識を詰め込むのではなくクリエイティブでいるために脳を使う、という意識への転換をする必要が有る。産業革命の時は、機械は人間の動きをすべて置き換えるまでには発達していなかったから、同じ作業を安定して繰り返せる労働力が必要だった。でも今は、ロボットとコンピューターがどんな作業でも繰り返しやってくれる」(p107-108)

ITの話だけでなく、そもそもの社会や人間、組織のあり方についても考える際に面白い視点を提供してくれる一冊やった。

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