2015年5月30日土曜日

「ネイチャーエデュケーション」は身近な公園で子どもを夢中にさせる自然教育だけでなく大人の仕事論としても面白かった

ネイチャーエデュケーション 身近な公園で子どもを夢中にさせる自然教育

タイトル通り、公園に子ども連れてく機会が多いのでなんか参考になるかなーと思って手にとったら予想外に面白かった。

パラパラ見た時に植物や虫の紹介や遊びの種類みたいなのが目に入って、そういうのが羅列してあるガイド的な本かなーとも思ったけどそれだけじゃなかった。後半はそういう感じになってるけど、前半はそういうのではない。著者のこれまでの実践経験からの考え方みたいな話が書かれていてそっちが面白かった。

著者自身は世界一周の旅をしたこともある、国内外各地を歩いてきた方。アウトドアイベントの企画や運営、研修講師、応急救護講習講師、自然ガイドの他、幼稚園や保育園での活動に力を入れていて、保育士向けの自然体験指導者育成や幼児向けの教室を開催しているとのこと。

プロローグは自然遊びの話から入るのではなく、著者がエチオピアの村に到着した時に子どもたちと交流した時の話から入っている。言葉も文化もわからないところで、周辺情報収集のためにまず子どもたちと仲良くなることが有効で、その時の話から子どもたちが好きな動作と行動の法則の話につなげている。

具体的にはこんな感じ。

子どもが好きな動作
走る 目標に向かって走る、ステップを使って走る、短・長距離を走るなど
飛ぶ 高いところから飛ぶ、長い距離を飛ぶ、高く飛ぶなど
投げる 高く投げる、遠くまで投げる、目標に向かって投げるなど
登る 高いところ(木、岩、建物)を登る、斜面を登るなど
転がる 体を寝かせて転がる、アクロバティックに転がる(マット運動のような動作)

子どもが好きな行動
競争する チームで、個人で
見つける 人を見つける、目標物を見つける
自慢する 特技を自慢する、持っている物を自慢する
教える 知っていることを教える
真似する 人、物、そのほか生きものなど対象物の真似をする
(p17)

さらっと読むと当たり前な感じやけど、改めて読むとなるほどなとも思える。40数ヶ国の子どもたちとやりとりしてすべての子どもたちが共通して好きなのがこういうことだということがわかったということで実体験にもとづいての話なので説得力がある。そして、今の幼児自然体験において大切にしている法則となったということ。

こうした法則の話だけでなく、具体的に保育園や幼稚園の活動で体験してきたエピソードも紹介されていてそのあたりも興味深かった。1つ印象に残ったエピソードが新年度スタート直後の活動の話。

初めて園児たちと顔合わせをして、プログラムをスタートさせ1回目は「次にいつ来るの?」と言われるくらい友達になって無事に終了。しかし2回目、3回目となっても一向に話を聞いてくれない。話し方、注目してもらい方、子どもとの関係などいろいろ工夫したけど完全無視。

意気消沈していたある時、なんとなく目に止まった一人の子どもをよく観察していると、視線の先を追ってみたところ飛び回る小さな虫をみていた様子。ほかの子も、ヒラヒラと落ちる葉っぱ、アリの行列、風で動く木などを見ていたのに気づく。

「この時、私はとても興味深いことを学びました。子ども達は、"集中していなかった"のではなく、面白い出来事に"集中していた"のです。
 園舎での活動とは違い、自然の中は"面白い誘惑"があちこちにあります。それは子ども達にとって新鮮で刺激的なもので、私の話の数倍目を引く存在だったのです」(p34)

これぞまさにパラダイム転換やなーと思った。これに気づいた後は、目の前で起きている現象と子ども達の想像が重なるところをうまく拾い上げて活動に生かすようにしたところ、子ども達の「集中力」はあがり、飽きることなく自然の中でたくさん学べるようになったということ。

大人のねらいや思惑で見ると「集中していなかった」となるけど、実際には「集中していた」というのが面白い。こういうことっていろいろ転がっているんやろうなーと思った。

もう1つ面白かったエピソードが保育園の先生を対象に自然体験活動の研修をしていた時の話。自然の中をある家「知っている生き物をノートにどんどん書いていこう」という課題を行うも、10種類以上書けた先生は数名で、3〜5種類くらいしか書けなかった先生がほとんど。

理由を聞くと「本当にそういう名前かどうか自信がない」「名前をうろ覚えなので書けない」という答え。その後、「気になる生き物、植物、樹木に自分で勝手に名前をつけていこう」というワークをやったら、1人の先生から平均して20以上の新しい名前が発表される。どれも特徴をわかりやすくした名前ばかり。

その後日談として研修後の変化を先生たちに聞くと、「自然にくわしくないというネガティブな感じが消えました」「自分で名前をつけた生きものを先日すぐに見つけられ、その面白いところを園児に話せるようになりました」(p75)との報告。

図鑑を使って脳みそから入れようとするのではなく、感性のおもむくままにまずは五感で自然に触れ合って楽しむのが良いよねという話。自然遊びの達人というのは「すごい人達」というイメージから一旦離れて、難しいことを考えずに「面白い」ことを優先して自然の中で子ども達と一緒に遊んで、わからないことがあったら一緒に考えるというスタンスは良いなーと思った。

その他、具体的に自然を楽しむアドバイスも書かれていて、1つが「道草食いニストになる」(p59)というもの。ゴール直進ではなく、ぶらぶらしながら道草を食う。そのためには歩くスピードをふだんの10分の1くらいにする。歩くスピードが遅くなるほど入ってくる情報が増える。そうすると自然の変化にも気づけるし楽しめる。

もう1つ面白い表現だなーと思ったのが「壁際族になる」(p62)というもの。メインの道から少し外れて「際」を歩くと、人間の気配が薄れて人間以外の生き物達の気配が濃くなる。そこにはいろんな発見がある。

さらにこれは表現としてはオーソドックスやけど「どうして・なんでちゃん」(p64)になるということも。よく小さい子どもがなんで?なんで?と聞いてくるけど、これはなぜ大事かというと、「人間の潜在的な、自然に備わった学習意欲の始まりであり、「疑問に思う→仮定を立てる→調査する→答えを導き出す」という学びのサイクルにもつながる」(p65)からということ。

これは仕事にもそのまま通じるし、学校や会社、その他の組織やコミュニティで問題解決能力が高い人っていうのはこういう身近なところからもそういった力が鍛えられてきたのかなーとも思ったりもした。

この話に関してウィットに富んでるなーと思ったのが以下の一節。

「気をつけていただきたいのは、癖がついて日常的に「どうして・なんでちゃん」になり過ぎてしまうことです。生活が豊かになることでもあるので非常によいことだとは思いますが、大人と大人の関係においては少々面倒な人になってしまう危険性もあります。スイッチはオンとオフがありますので、切り替えはしっかりするようにしましょう」(p67)

これは確かに(笑)。でも著者も言ってるけど、大人になるにつれて、だんだん改めて「どうして?」「なんで?」と問うことをしなくなって、これはこういうものだ式に進めていっちゃうことも少なくない。特に組織でやってる仕事なんて、いちいちそもそも論を唱えていたりすると面倒な人と思われるちゃったりもする。

でもそういうところが大事だったりするわけで面倒臭さとそういう本質の大事さとの兼ね合いをどうとっていくかっていうのも鍵やし、子どもはそういういところも成長しながら学ぶ(これを学ぶというのであれば)のかなーとも思ったりもした。

上記の他にも、子どもに関心を持ってもらうための話し方や伝え方といった内容もあって、それはコミュニケーション一般の話としても読めるような内容でもあった(事実を羅列して伝えるのではなく、内容を編集して子どもがワクワクするような言い方で短くわかりやすく伝えることが重要など)。

メインの内容の自然遊びのヒントだけでなく、もっと根本的な子どもとの関わり方、相手を踏まえたコミュニケーションのとり方などいろんな面でヒントが得られる一冊やった。


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