2014年12月21日日曜日

「女性が活躍する会社」はその他の人にとっても活躍しやすいのかも


女性が活躍する会社 (日経文庫)

著者はリクルートワークス研究所の方お二人。意図的に男性と女性1人ずつにしていて、女性が語っただけの内容だと残念ながら聞く耳を持たない男性がいる一方で、それだけだと見落としてしまう点もあるだろうということで男性の視点も加えているとのこと。

政財界でもいろんな話があるけど、なんで女性の登用や活躍が重要なのかということが、マクロな統計的なデータの話とミクロな具体的事例や生の声の両方の面から紹介されている。

マクロな話は他国に比べて進出率が低い(「遅れている」という価値判断がどうなのかはまた議論あると思うけど)こと等でこっちの話はわりと最近はよく出ている話でもある。一方で具体的な事例の話は、出版年が2014年10月と新しいこともあって結構最近の動きまで取り入れられていて、個人的にはこっちの話が面白かった。

内容も、女性の活躍推進が単にCSR的な意味で意義があるという話ではなく、人材が不足していく社会の中で経営戦略として重要であり、かつ、女性が働きやすい職場にしていくことは女性のためだけではなく男性や会社全体のためにもなるという話。

例えば、「女性が働きやすい会社は男性も働きやすい」という章があるけど、そこでは、誰かにとって働きやすい職場を作ることはその当事者だけでなくてその他の人にも良い影響があるということが述べられている。ある会社で、女性ではないけどシニアの方にとって働きやすい職場にしたところ、それを見て若い人の応募も増えたという例も紹介されとった。

重要性を踏まえつつ、どう考えていくかというところで、第1章では「女性育成の常識は間違いだらけ」と題して以下のようなポイントが紹介されている。

1. ロールモデル探しは誤り
2. 長い育休と短時間勤務が女性のキャリアを阻害する
3. 安易なスペシャリスト化は成長を止める
4. メンターよりもスポンサーが大事

例えば1については、そもそも今の日本企業で管理職になっている女性の多くは40代以上で入社時期は1990年前後。その時の時代背景と今の状況は異なっている。そうした中でああいう人を目指しなさいと言っても「すごいと思うけれど、私はあそこまでのスーパーウーマンではないわ…」(p18)となってしまう。そうした中で無理やり「ロールモデル」を探してもあまり意味がない。むしろこれから新しい像を作っていくくらいでないとという話。

2やついては、女性のライフイベントを考慮して「優しさ」として制度を充実化させたりするのは、そういうニーズもあるかもしれないが、それよりもある程度復帰を早めていった方が組織の側も本人の側もキャリアを考えていきやすいということ等が述べられている。

3については、女性はスペシャリスト志向が強い(ホントかな?)と捉えられることが多いけど、それとライフイベントのことがあいまって、結局多様な経験を積んで組織のステージを上がっていくというキャリアパスをたどらないことが多い。しかしそれではキャリアとしては一定のところで止まりやすいということ。

4については、メンターは一定の効果があったものの、女性のメンターになっている人は、男性のメンターになっている人に比べて組織内での影響力が高くないポジションにいることが多く、悩みを聞いてそれを組織内で解決する力や昇進や昇格で影響を及ぼしたりする力が相対的に弱いということ。

上記の話がどのくらい妥当性があるのか判断はつかんところもあるけど、いわゆる「常識」で思考停止していたら見えてこないこともあるなと改めて感じた。

第5章では、「新人女性を確実にリーダーに育てるシナリオ」として、具体的に女性の管理職をどう育てていくかというシナリオが紹介されている。女性の得意技はスタートダッシュということで、最初のうちからしっかりジョブローテーションする設計をしておき、多少経験が浅くてもさっさとリーダーという舞台に上げてしまうという考え方。

興味深かったのが、新卒時点では男性よりも女性の方が優秀なことが多いということ。多くの人事担当者の実感としてそう感じられているという。採用時点だけで判断すると女性が多くなりがちなので、男性に多少下駄を履かせて将来のポテンシャルを見込んで採用しているのだから、女性の方は組織に入ってから管理職昇進の場でハイヒールを履かせて底上げしてもバランスがとれるくらいでちょうどいいのではという比喩も述べられとった。

その他、第4章では「この機会に労働時間を見直す」と題して、そもそも長時間労働がボトルネックになっているという指摘。以下のような指摘は確かになーと思った。「フルタイム」の定義がおかしい。

「日本では、正社員はフルタイム労働が基本ですが、ここでいうフルタイムは1日8時間/週40時間働いて定時に帰る人のことではありません。日本の正社員のフルタイムとは、「何時間でも残業が可能なこと」「オーバータイムで労働できること」とほぼ同義になってしまっているのです」(p100)

これに関連して絵本ナビという会社の社長の方のエピソードが興味深かった。社長の方が18時を過ぎて自分が退社するときにまだ残業している社員に対して、以前は「遅くまでたいへんだな」「悪いね」(p113)と声をかけていたがそれを意識的にやめたということ。代わりに「早く終わらせて帰れよ」とだけ言って帰るようにしたということ。この言葉が良いかどうかはあるとしても、これによって「残業している=がんばっている」ということを社長が心の底で認めることをやめて、「残業せずに帰ることがよいことだ」と従業員にメッセージとしてしっかり伝えるようにしているということ。

その他にもいろいろとポイントがコンパクトにまとまっていて、全体感をつかむのに良い一冊やった。人材育成に携わる人自身が読むとか、上司にとりあえず読んでもらうとかに良いかも。

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