2014年12月18日木曜日

「「自分ごと」だと人は育つ 」を読んでだいぶOJTに関する考え方が変わった

「自分ごと」だと人は育つ 「任せて・見る」「任せ・きる」の新入社員OJT 

博報堂における新入社員OJTの取り組みについてまとめたもの。読む前は、なんとなく先入観で、業界的にも企業風土的にも結構違いそうなんでどこまで参考になるかなーと思っていたけど、そういうのは関係なかった。むしろ今の時代のOJTにあたっての考え方としてなるほどなと思える視点がまとまっていて、かなり参考になった。

博報堂では、2006年から従来型の新入社員教育の見直しを始め、約4年にわたる試行錯誤を経て2011年に新しい形でのOJTのアプローチを整理したということで、その内容をもとに出版したのが本書。

課題意識としては、こんな感じ。

「「新入社員OJT」は、とても身近でありながらも、今の時代に合った解が見えにくくなっているテーマ」(p3)である一方、「変化は確実に起こって」(p4)いる。ただ、現場ではOJTによる育成や指導が難しくなってきている=OJTが効かなくなってきているという実感がある。

じゃあなんで効かなくなってきたのかというときに、よく言われる「ゆとり世代」だからということだけでは説明にならないし、解決にもならない。そうしたところが第1章の「「人が育ちにくい時代」の認識から始める」というタイトルにもあらわされている。

背景としては大きく以下の2つ(p28)。
1)仕事の内容や進め方の大きな変化
 情報通信技術の進化による仕事の大幅な効率化
 →プラン策定やフィードバックのサイクルが高速に
 →「高速型のPDCA」(p28)が必要に
 →大量の仕事を速く回すことが求められる

2)職場のステークホルダーの変化とルーティンワークの空洞化
 伝統的なピラミッド型の組織からフラット型に、多様な勤務形態、外部リソースとの協働
 →かつて若手社員が担当していたような「単純な仕事」「つなぎの仕事」が徐々に消失
 →新入社員の見習い期間にやっていた仕事が育成の現場からなくなる

上記の結果、「今の新入社員は、難易度の高い仕事や職場環境への適応を短期間で求められている」(p30)ということ。別の観点からは、「新人は早期に単独で仕事を回せるようになることが求められている」(p32)。

一方で、新人=若者の価値観や学習姿勢の変化をおさえておくことも重要。特に学習姿勢としては、帰納型ではなく演繹型の学習に慣れているということ。

別の言い方をすると、「守・破・離」のように、まずやってみて体験してみてその中から学びながら自分で解を見つけ出して成長していくというスタイルではなく、「リアルな経験の前に、全体像やその行為の意味するところ、あるいは具体的に取り組むうえでの手順や留意点を体系的に学んでからその認識に沿って経験するという学習スタイルに慣れて」(p37)いる。

これは単にマニュアル人間という話ではなく、時間をはじめとするリソースが限られる中で、いかに効率的にやっていくかということが求められる時代の中で身につけられたものということ。全体像をとらえて仮説を立ててシミュレーションした上で経験に入り、軌道修正しながら身につけていくというアプローチ。

そうした中では
「徒弟制度的な発想は今の新人世代には通用しない」(p39)
ということ。

「失敗を恐れるな」「失敗を積み重ねて成長する」(p46)とは言われても、新人の立場からすると、「高速」で「複雑」な業務に満ちあふれている仕事環境の中で早期に一人前になることが求められている状況では、そうそう失敗を重ねてロスすることはできない。

そうすると、やはり経験前にポイントをできるだけおさえてから入った方が結果的に効率も良いという考え方になる。このあたりを「甘い」思うかもしれないが、「今の新人の不安や躊躇はそれだけ大きい」(p134)ということ。また、仕事への意識が低いわけではなく、「心配や不安、躊躇の気持ちが大きいということは、それだけ仕事に真面目に向き合っていると捉えることもできる」(p134)ということでもある。

このへんはなるほどなーと思った。価値観の変化の話はよく聞くけど、学習姿勢の変化という視点では考えたことがあまりなかったのでこれが有益やった。自分は世代的にはゆとりのちょっと前の世代なので、いわゆるゆとり的な話もわからんでもない部分もあるんやけど、どちらかというと、まずやってみようぜとか「守・破・離」とかがしっくりくる。

何か教えたりするときにもしっくりこないことがあったりしたんやけど、このへんの「経験への向き合い方」(p38)が違うということで整理された気がする。もちろん、いわゆる「ゆとり」みたいな要素もあるにはあるかもしらんけど、それ自体はなかなか変えられないので、その背景を理解した上でどうするかっていうこっちのインサイド・アウトが大事かもなーとそこに戻ってきた。

本書では、こうした時代背景の認識をした上で、今の時代にあった新しいOJTの考え方を整理して紹介した上で、博報堂で実際に取り組んでいる内容を紹介している。前半の話だけでも考え方として参考になるけど、そこにさらに実際にやってみてどうだったか、どういうところが鍵になるかという話が具体的な経験から述べられているのでこちらも参考になる(使用しているシートの例までついている)。

今の新人が演繹的なアプローチをベースにしているからといって、OJTの進め方として全期間にわたって「演繹的学習志向に応える指導」(p240)を意味しない。OJT前期ではそうした志向を踏まえつつトレーナーが指導や補助をしながら必要最低限の経験をパターンを変えながら積んでもらうが(「任せて・見る」フェーズ)、その上でOJT後期では「経験が先行する学習(帰納的学習」(p240)に入ってもらう。前期の経験に応用を利かせて自分なりに考えて仕事を進めてもらう(「任せ・きる」フェーズ)。

トレーナーの役割も指導者から支援者に変わっていく。鍵になるのがフィードバック。まず、トレーナーからのフィードバックで「暗黙知」をうまく言語化して伝えていく。このあたりはトレーナー自身の育成課題でもある。一方で、特にOJT後期においては、自分なりの解をもって進めていくフェーズになり、自己フィードバックができるようにしていくことが重要。トレーナーはそこに対して手や口を出しすぎないように支援をしていく。

ゴールイメージを明確にしてトレーナーとトレーニーの間で認識をあわせつつ、フィードバックを繰り返していくことで目標に向かっていく。そうしないと、「トレーナーが新人に求めるのは、単にできていないことについて、修正行動を求めることだけが中心になってしまう」(p262-263)ことになり、いわば場当たり的になってしまう。トレーナーの側には「新人の目線を常に上げる」(p263)ことが求められてくる。

トレーナーの具体的な行動としての「ほめる/叱る」についても、前半は「できた/できなかった」といった個々の業務や経験、アウトプットに関するものであっても、後半は少しずつ気持ちやマインドへと移行する(例:よくやりきった)。こういうことを重ねていくと、前半で伸び悩んでいた新人も後半(特に12月から翌年2月くらい)に大きく伸びるという。

最後のあとがきでは、この本を作ったプロセスについても少し触れられているけどその中で印象に残ったのが以下の話。

「トレーナーと新入社員は社内最小のチームである」
「指導者であるトレーナーは社内の最小チームのリーダーである」
(p311)

上記の考え方をベースに、「新人とトレーナー、どちらの立場に立つのでもなく、「チームワークによってクリエイティビティを発揮する」ことが求められるこの会社にとって、とてもフィットする考え方ができあがりました」(p311)と述べられている。博報堂の考え方にフィットするということでもあるとは思うんやけど、この考え方は他のところでも通じるところがたくさんあると思う。

この本自体も帰納型と演繹型の部分がうまくミックスされていて、新しい時代のOJTの雰囲気を体現しているような感じがして、参考になった一冊やった。図書館で借りた本ではあったけど、いろいろ見返して参照したいところがあって手元においておきたいので、Amazonで注文。またおりにふれて読み返して実践につなげていきたい。

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