2015年2月21日土曜日

農薬から有機までバランスのとれた内容の「図解でよくわかる農薬のきほん」

図解でよくわかる農薬のきほん: 農薬の選び方・使い方から、安全性、種類、流通まで (すぐわかるすごくわかる!)

直近で農薬関連のことをやる機会があるわけでもないけど、講義の復習にもいいかなーと思って読んでみた。出版年が2014年と新しいこともあってか、思った以上にいろんなトピックがまとまっていて面白かった。

巻頭には、カラーでおもな病害虫と雑草の特徴が紹介されていて、図鑑のようにも使える。本編は、農薬とは何か、農薬防除のきほん、化学農薬だけに頼らない防除法、安心資材で減農薬、家庭菜園の防除、農薬の安全性、農薬の未来といった感じのテーマ。

スタンスとしては、農薬万歳!絶対安全!というわけでもなく、農薬危険!要注意!というわけでもない。偏ってなくてわりと客観的に良し悪しあるよねーという話。そもそもなんで必要なのか、使う時のリスクはどう管理されているのか、それを踏まえてどう考えたらいいのかということが整理されている。

冒頭にも以下のように書いてある。

「農薬とはその文字のとおり
 「農作物の保護に使う薬」のことである。
 人間が、病気やケガをしたときに薬を使うように
 植物も、薬を必要とするときがある。
 当然、安全に使うためには、
 用法・用量をきちんと守る必要が有る。
 この本は、農薬を使う人はもちろん、
 農作物を食べる人にも知ってほしい
 農薬の「きほん」を集めた本である」(p6)

表現や説明もわかりやすい。例えば、なぜ農薬がそもそも必要なのかという話では、「品種改良で武装解除された農作物」(p52)といった表現。植物はそもそも進化の過程で草食動物や病原菌から身を守るために忌避物質や有毒物質で武装してきたが、それが人間にとっても好ましいものではない。それを避けるように改良したもので、かつ、栄養価が高いものというのは虫や病原菌にとってもおいしい。そこでどう防除するかというところで農薬の必要性が出てくる。

最古の農薬の記録は1600年に出雲(島根)で書き残されたもの。アサガオの種子、トリカブトの根、樹脂の化石、樟脳、ミョウバンを組み合わせたものをいぶすか、煎じた液を散布することでネキリムシやウンカが退治できたという。他にも、1670年に筑前(福岡)では、鯨油を水田に注入して害虫を窒息させるとかいう方法も紹介されていたり。

農薬というと、近代的な化学農薬みたいなイメージがあるけど、品種改良と一緒で昔から発想としては脈々としてやられてきたものでもあるということがよく分かる。それがやりすぎになったらいろんな歪みが出てくるとは思うけど、結局自分たちが植物食べて生きていくためには、虫や菌を防ぐ技術はなんらかの形で必要で、その面で何がいいのかというのは要はバランスの話になるのかなーと思った。

冒頭の比喩にもあったように、人間でも病気になったときに薬に頼りたがらない人もいれば、どんどん使う人もいる。そのへんは好みの問題とかもあるけど、先入観でなんとなく危ないとかではなく、どういう背景でどの程度のものが必要でそれにはどんなリスクがあるのか、そのへんを踏まえて判断できるといいよなーと思った(どのみち100%確実なことっていうのはないので最終的にはエイヤの判断になるところはあるとしても)。最後の方でも「農薬を過剰に怖がらない」(p150)という話もあった。

他には、病害虫発生の3要因(主因、素因、誘因)とかの基本的な構造の話とか、IPM(総合的病害虫管理)、生物的防除、物理的防除、耕種的防除とか、化学農薬に限らないテーマもおさえられとった。化学農薬以外に防除に使えるものもいろいろ紹介されていて、例えば石灰や米ヌカとか。砂糖や水あめも補助的に使うと有効みたいな話もあって興味深かった。

その他、家庭菜園における防除や法制度の話など。法律に関しては、有機農業推進法の話や減農薬の話もあってバランスがとれている内容に感じた。末尾には農薬や病害虫について調べるときに役立つサイトの一覧もあって、巻頭の病害虫一覧とあわせると参照用としても使える内容でいろいろトピックスを確認したいときには手元にあると便利な一冊かもなーと思った。

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