2013年6月21日金曜日

「部長の経営学」というよりは「同族」や「ミドルの声」を評価する一冊

部長の経営学 (ちくま新書)  

タイトルからすると、部長のような中間管理職層も経営視点を持ってマネジメントしていきましょうというような心構えの話かなーと思っていたけど、ちょっと違った角度からの話やった。

■企業は誰のものか
企業の存在意義、企業はだれのものかといったテーマから始まっていて、「投資家資本主義」「株主重視」の統治形態についての批判が述べられている。

このあたりは、岩井克人さんの「会社は誰のものか」の話と通じるところが多い。ただ、この本の方は分析と言うよりは、いろんな資料からの情報を元にして整理している感じでまとめといった感じで、岩井さんの本の方が分析や考察としては考えさせられるところが多かった気がする。


■「同族」の意義
そんなところもあって前半は復習みたいな感じでさらっとなんとなく読んでたけど、途中からのテーマが面白かった。それは「同族」企業についての話。

株式所有構造や経営者の属性から「同族」の存在感をみていき、「同族」は不祥事の温床か?低業績の温床か?といったことを整理しながら「同族」に対する一方的なネガティブイメージに疑問を投げかけている。

あと、ヨーロッパやアジアに比べればアメリカの企業には同族企業が少ないようなイメージがあるが、アメリカの大手企業2000社(金融、公益企業を除く)に関するある調査結果によると、約半数が同族によって支配されているとのこと(p94)。

同様に、「ビジネスウィーク」の2003年11月10日号の特集では、S&P500社の3分の1では創業家が経営に関与していて良い業績を示していることがとりあげられているという(p116)。

なぜ同族が貢献しているかという理由の1つとして「コミットメント」の強さがあげられている。

「同族には、ごく短期にとどまらず、当該企業の経営が「孫子の代まで」中長期にわたって健全な状態であることを期待するインセンティブがあると考えるのが自然です」(p139)

その上で、長期的なコミットメントをもつプレイヤーとしての「同族」を評価している。


■「ミドルの声」の重要性
これと同じ論理で「ミドルの声」も重視されている。

これは、株式市場で株式を売ったり買ったりしていてコミットメントが短い株主に比べれば、働く場として企業にコミットしているミドルの方が中長期的な観点からは重要であるという視点。

こういう視点からミドルの重要性を整理しているのは面白いなと思った。


全体的には、「投資家資本主義」「株主重視」への批判の視点については、それはそれで分かるけど一方的な感じもしないでもない。ただ、中長期的なコミットメントという視点から、ネガティブにのみ見られがちな「同族」、あるいは、同じ視点から「ミドルの声」を重視するべきという視点は参考になる一冊やった。



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