2014年9月5日金曜日

「言える化 「ガリガリ君」の赤城乳業が躍進する秘密」で仕事にワクワクする気持ちがわいてきた

言える化 ー「ガリガリ君」の赤城乳業が躍進する秘密

ガリガリ君をはじめとするアイスの製造・販売を行なっている赤城乳業についての本。ガリガリ君っていうだけで気になったんやけどさらに面白いのが著者の方との組み合わせ。

著者は戦略系のコンサルティング会社のローランド・ベルガーの日本法人の会長の方で、約25年もの間、数百社の企業の経営をこれまでに見てきている。いろんな企業を見てきた著者が、なんでわざわざガリガリ君の会社を取り上げたというところも注目ポイント。

数百社もみているとだんだん新鮮な驚きも失われていくけど、赤城乳業は違って、ワクワクするような驚きを感じたということ。内容を読んでいくと、なるほど、これはスゴイ、というか面白い!ということがよく分かるし、著者のワクワク感も伝わってくるような内容になっていて、読んでいてこっちもワクワク感を感じられて楽しかった。

文章も、著者の方の要約力というか、本質を切り取る力が反映されていて、どういう特徴があってどうユニークで何が成功につながっているのかということが分かりやすい言葉で整理されている。スタートアップの時期の話は少なめやけど、数十人、数百人くらいの規模の会社が、小さくても強い会社=強小カンパニーをどう目指していくかというところで参考になるポイントも多かった。

■驚くべき生産性
まず数字がいろいろ出てくるけど、社員数330人で売上高353億円(2012年度)というのがまずスゴイ。1人あたりの売上高で言うと1億を超えている。さらに、その時点で6年連続の増収。2003年の売上と比べると191%の伸びということで10年間で売上が約2倍。

ガリガリ君自体も発売はなんと1981年と20年以上前(自分が産まれる前だった…)。発売当時はそんなにヒットしたわけでもないけど、それをじわじわと育てて特に2000年代に入ってから爆発的に伸び始めて、今や年間4億本を超えるという。平均で国民1人あたり3本くらいは食べている換算になる。30年をかけて国民的なヒット商品になったというからそれだけでもかなり興味深い。

■温もりのある「放置プレイ」
その背景にある企業文化について主に紹介されているんやけど、そこもまた面白い。その1つが、若手に任せるという文化。新卒数年くらいの社員がどんどん第一線に出て、かつ、自分の責任で仕事を進める。大手のクライアントとの会議でも、先方は複数でいろんな部署から出てくるのに赤城乳業は若手1名というのもざらにあるという。

キーワードとしてあげられていたのが、「温もりのある「放置プレイ」」(p49)。これにはいくつかの側面があるけど、一つは文字どおり、基本的には放置。むやみやたらに口や手を出さない。ただ、最後まで放置しっぱなしというとそういうわけでもなくて、ギリギリのところでは手助けが入る。任される若手の方も、自分の意志と責任でギリギリまでもうこれ以上は無理というところまでやりきってから手助けを求め、周りもそれを分かって待っていたりタイミングよく助けたりしている。

■言える化
これと関連しているのがタイトルにもなっている「言える化」。若手にいろいろ言ってもらうのも、放置にも忍耐がいるけど、そこを徹底している。ある営業部長の方の話も印象深い。

「経験のある人間だけで決めて、動けば、目先の仕事は効率的に回るかもしれない。でも、それでは人は育たないし、新たな発送やアイデアも産まれてこない。営業部長の渋沢は、「言える化」を実践するための自分なりの努力を教えてくれた。
「中堅・若手中心の会議では、途中で席を外すようにしている。若い連中の話を聞いていると、どうしても一言言いたくなる。議論を妨げないためには、そこにいないのが一番いい」
 生産部門の管理職30名が集まる定例会議では、担当常務の古市は最初の一言だけ話すと退出する。古市はこう言う。
「会議の進行表に(役員退出)と書かれているので、出ざるをえない。ちょっと寂しいが、それで議論が活性化するなら大歓迎」
「言える化」という土壌は、一気にできるものではない。上の人間が「言える化」の重要性を認識し、日常の中でちょっとした努力や工夫、気遣いを積み重ねてつくり上げるものなのである」(p142)

若手の意見を活用しようみたいな話はよくあると思うんやけど、そう言うだけでなくて、そうならざるを得ないような仕組みというか、行動にまでもっていって、そういうことを積み重ねているのが大きいのかなと感じた。

■「やばい」は一人前への登竜門
こうしたことの他に、もう1つ赤城乳業の製品を特徴付けているのが、そのユニークさ。ガリガリ君のコーンポタージュ味というかなり奇抜な味が話題になったのも記憶に新しいけど、それもこういう企業文化があってからこそ産まれてきたもの。それを象徴するようなエピソードが以下。

「なんとかアイデアをひねり出して、苦し紛れで新商品の提案を上司にしたところ、「お前、これ自分で何点だと思っているんだ?」と詰問された。
 自信などまったくなかったので、思わず「60点です」と正直に答えると、「60点のものを売っていいんか!」とすごい剣幕で怒鳴りつけられた。新入社員だからといって、仕事の中身については容赦はない。
 そんな経験を積み重ねながら、影山は少しずつ商品開発の勘どころを身に付けていった。そして、影山はあることに気が付く。それは「普通すぎると、めっちゃ怒られる」ということだ」(p39)

関連して、PRも突き抜けている。面白かったのが、あえて真冬の札幌で雪の降る中にガリガリ君の着ぐるみを登場させてアイスを配ったりしたという。これは普通だと逆やけど、逆をいくことによって、「冬にアイスかよ!」といった形で面白がられて口コミが広がる。その他、ガリガリ君専用のスプーンを売り場においたりとか。それも、「棒アイスにスプーンいらねえだろ!」みたいな感じで口コミを産む。

■ゆるいからといって、ぬるいわけではない。
一方で、ゆるいからといって、ゆるゆるのびのびなだけで仕事をしているわけではない。それをあらわしているのが以下。

「ゆるいからといって、ぬるいわけではない。ゆるいからこそ、社員たちは責任感を持ち、自主的に動く。
 日本企業の強さの本質はそこにある。日本らしい創造は、この現場の自由度から生まれる。赤城乳業の原画から創造性溢れる商品や販促策、改善提案が続々と誕生する理由は、この自由度の高さにある。
 また、赤城乳業はとても「やわらかい」。世の中の常識や業界の常識をさりげなく否定して、新機軸を打ち出すのが得意だ。
 頭が錆ついている会社が多い中で、常にフレッシュだ。「異端」の発想や「あそび心」が社員に沁みついているからこそ、竹のようなしなやかさを持っている。
 そして、この会社はとても「あったかい」。失敗に対してとても寛容であり、失敗そのものを楽しんでしまう度量の大きさを持っている。冷凍技術は一流だが、実はあたためて「溶かす」のも得意だ」(p215)


「ゆるいからといって、ぬるいわけではない」というのは言い得て妙だなーと思った。数百名規模の組織でどういう組織像を目指すかというところでヒントになる話がいろいろ詰まっている良い一冊やった。これは図書館で借りたけど、買って手元に置いておくことにしました。

0 件のコメント:

コメントを投稿