2013年7月20日土曜日

「日本人はどう住まうべきか?」を通じて日本人や生き方について考えられる一冊

日本人はどう住まうべきか?

隈研吾さんと養老孟司さんの対談集。元々は日経BPの連載。「住まう」ということがメインテーマで、建築や都市計画などの話がメインやけど、住まうということを通じた日本人論や、人としてどう生きていくべきかという人生論までつながる内容。

連載記事も読んでたけど、連載の時には読んでなかったか書いてなかったような話もたくさんあって面白かった。

■分からないものは無視してしまう
印象に残ったのが津波対策の話。隈さんによると、建築業界では津波に対しては「ノーマーク」だったという。耐震設計に関しては世界トップレベルにあるほど研究も煤寝入るけど、津波については部会も無かったという。

「どうしてそういう空白があったかというと、津波は何メートルになるか予想できないもので、どういう方向から来て、どういうふうに流れるのかも分かりませんから、来ることは分かっていても、何も考えなかったのではないか、と。驚くべき無防備の状態ですよね。無意識のうちに、コントロールできるものと、コントロールできないものとの間に線を引いていたとしか思えない。まさしく養老先生がベストセラーに書かれた「バカの壁」ではないかと」(p15)

これに対して、ビジネス書とか思考術とかの話で、コントロールできることに集中しましょうという話があるのを思い出した。思考術としてはその方がストレスも減るし生産性が上がるのかとは思うけど、コントロールできないものとして無意識においやったものの中に重要なものが入っていてそこが抜け落ちてしまう危険性もあるのかなと感じた。


■「だましだまし」進める知恵
もう1つ印象に残ったのが「だましだまし」という発想。

隈さんの話。
「震災後すぐは、どうしても議論が過激なところに行ってしまう。例えば市街地は全部、高台に作り直せ、とか。一律になんとかしろ、という方向に振れがちなんです。そのことに僕は危うさを感じますね。 関東大震災の後の異常心理が、日本人を太平洋戦争まで持っていった、ということを、養老先生が池田清彦先生(早稲田大学教授・生物学評論家)との対談でお話しになっていましたが、まさしく今も震災後の特別心理みたいなものが極端に振れています。僕たちはもともと非常に不安定な国土に住んでいるからこそ、「だましだまし」の手法を磨いていくしかないんだけど。
(中略)
「だましだまし」で復興を地道にやっていけば、その過程で新しい科学や技術が使えるようになり、一歩ずつ補強されていく。そういう方法論で、この危なっかしい場所を現実的に住みこなしていくしかないんですけどね」
(p32)

別の所では、サラリーマン化というキーワードが出ていたけど、効率を求めて画一化し、完璧主義になってきたことで、現場の樣子を見ながらいい意味で適当に「だましだまし」やっていくことができなくなっているという話。

ルールや理想はそれはそれであるとしても、それを突き詰めると現場との齟齬が必ず起きる。それをうまく調整しながらやっていきましょうという発想はプラクティカルやなーと思った。


■都市という発明品とコンクリート神話
また、都市の話とコンクリートの話はそういう発想がなかったので新鮮だった。確かにななと思った。

都市についての話が以下。

「隈 もう、まったく変わってきます。都市の作り方は、昔からみんな同じようなものだと思われがちですが、実は現在、僕たちが知っている都市というのは、それこそアメリカが20世紀の最初に自動車と一体となって作ったものですから、歴史的には実に短期的なもので、まだ検証が十分にされていない不完全な発明品なんです。

養老 そうですね。石油エネルギーを背景にした、たかだかこの1世紀ぐらいのものです。」
(p113)

コンクリートは信用で成り立っているという隈さんの話が以下。

「逆説的ですが、中身が見えなくて分からないからこそ、強度を連想させる何かがある。生活の危うさとか、近代の核家族の頼りなさのようなものを支えてあまりある強さを感じるのかもしれません。そういう何かにすがりたいという人間の弱い心理に付け込んだ、詐欺のようなところがコンクリートにはありますね。石やレンガの積み方はひと目で分かりますから、こちらは欺きようがない世界です。でもコンクリートは完全に密実なる一体で、壊しようがなく、圧倒的強度があるようにみんな思い込んでしまう。実はその中はボロボロかもしれないのに」(p43)

こういうことを考えると都市でコンクリートの建物の中で暮らしていくあり方について、考えさせられた。それが悪いということではなくて、上記のような背景を押さえた上で暮らす方が良いのかなと。


他にもたくさん面白い論点があって、ウィットが効いていて面白い対談集やった。いろんな人に薦めてみたいと思える一冊やった。

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