2013年1月19日土曜日

80年以上読み継がれているだけのことはある「広告でいちばん大切なこと」

広告でいちばん大切なこと

19世紀末から20世紀頭にかけてアメリカで活躍したコピーライターの方が半生を振り返って書かれた本。自伝的な内容。

タイトルは「広告でいちばん大切なこと」ってなってるけど、原題は「My Life in Advertising」なのでこっちの方が近い感じ。

元の本が出版されたのは80年以上前やけど、内容が全然古い感じがしない。

もちろん、扱われている商品や広告の例が古かったりするところはあるけど、考え方のところは今読んでもなお新鮮味がある。

■顧客の立場で考える
繰り返し述べられている重要な視点の1つが、顧客の立場で考えるということ。特に、この著者は大衆消費財の高オックに関わったので、庶民の視点で考えることを重視していて例えば次のように述べている。

「主婦が求めているものを白髪頭の重役が判断するなど、わたしには愚の骨頂としか思われない」(p29)

「わたしが言いたいのは、すぐれた広告というものがいかに普通で庶民的なものか、庶民の感覚を持っていることがいかに重要かということである。この仕事を始めたばかりの者は、言葉や表現力に頼ろうとすることが多い。奇抜な表現で注目を集めようとする者もいる。どれも自分の能力をひけらかすためだ。しかし、こうした広告は必ず読み手の反発を招く。わたしの知る真の広告人たちはみな庶民階級の出身であり、自分の仲間である庶民を理解している。
 庶民は賢明で、経済的で、つましく、疑い深い。日々の買い物で庶民をだませると思ってはいけない。高い教育を受けた者、上流階級で育った者が庶民を理解することはできない―!」
(p35)


■利他的になる=相手のためになるサービスを提供する
もう1つの視点が利他的になるということ。サービスを提供することとも言い換えられている。

「普通のセールスマンはあからさまに相手の歓心を買おうとす
る。自分の利益を追求しようとする。こうしたセールスマンは、「他社ではなく、うちの商品を買え」と言っているにすぎない。利己的な消費者に利己的な頼みをしているのだから、抵抗にあうのは当然だ。
 わたしが提供したのはサービスだった。わたしは常にパン屋の事業を支援した。わたし自身の利益はパン屋の意に沿うための努力に隠されていた」
(p79-80)

ここで挙げられていたのはパン屋の販促の事例。ショートニングの販売で、パイが有名な会社に売ろうとした時の話。

最初話をした時はもうすでにストックがあるので買わないよという返事。

そこで、話をする時に、トラック2台分のコストエットという商品を買えば、トラックの両側にパイの広告を掲載するという提案。

その結果、1週間で、6人のセールスマンが6週間で売ったよりも多くを売ったということ。

こうした手法について、他の人はこんなものは広告ではないと言ったりもするが、大事なのは相手の利益になること、サービスを提供することであるという話。

この点について著者は次のように述べている。

「「類似品にご注意を」、「本物をお求めください」。これはどれも、「他社に渡している金をうちによこせ」という訴えを言い換えたものにすぎない。このような訴えには何の効果もない。人間はおのおのが利己的な目的を追求している。他人の利己的な品を考えているひまなどない。利他的なアプローチで消費者の支持を請う気がないなら、広告の世界でも販売の世界でも成功する望みはないだろう。あなたもわたしも自分を犠牲にしてまで他人に利益を譲ろうとはしない。ならば、他人も同じと考えるべきだ。」
(p110)

これとも関連して、広告における過ちについて次のように述べている。

「広告における大きな過ちを二つ挙げるなら、それは自慢と利己心である。成功をおさめた人間は本能的に自分の偉業を他者に伝えたいと考える。晩餐会の席でなら、それも可能だろう。相手は逃げることができないからだ。しかし、広告では違う。法外なコストをかける場合は別として、広告では利己的な企てを成功させることもできない。どんなサービスを提供するのかを語れば、人々は耳を傾けるだろう。しかし、自分の優位を見せつけようとすれば、人々はそっぽを向く。永遠にだ。」
(p109)


■広告で新しい習慣を身につけさせるのは難しい
上記とは別の視点として、広告の限界についても述べられている。それは、広告では新しい習慣を身につけさせることは難しいということ。

「新しい習慣を生み出すためには、まず大衆を啓蒙しなければならない。これは通常、記者の仕事だ。
 わたしの知る限り、広告主が単独で、かつ利益を生む形で大衆の習慣を変えたことない。」
(p159)

この話と関連して、オートミールの販売の例を挙げている。著者は、オートミールの啓蒙キャンペーンを展開したが、オートミールを食べない人に新しく食べてもらうには膨大なコストがかかり、コストを回収できない。

こうしたことから、アプローチを変更。これ以降はオートミールをすでに食べている人を狙った広告を作成し、成功。

このへんの話は、クラウドサービスの啓蒙も同じかもなーと感じた。

上記の他にも、原則や考え方の面で今にも通じる話がたくさんあった。

例えば、反応あたりのコストの計算をしてたりするのはリスティング広告のCPAの話と通じるし、既存顧客と新規顧客で問い合わせ対応を変えるっていう話は、CRMの話とも通じる。

さすが80年以上も読み継がれているだけのことはある。広告について考える際に読んでおいて損はない一冊やなーと思った。

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