2013年1月13日日曜日

子育てやコミュニケーションのヒントが満載の「社会SQの作り方」

社会脳SQの作り方 IQでもEQでもない成功する人の秘密 (講談社プラスアルファ新書)

タイトルにあるとおり、社会脳に関するトピックを扱った本。

「社会脳SQの作り方」というと、
子育てや教育ノウハウみたいな感じがするけど
どちらかというと研究寄りの内容でメカニズムを説明していて
「社会脳SQの作られ方」という感じの内容。

社会脳とは「社会性に関係する脳の働き」(p3)のこと。
ここで言っている社会性とは、
平たく言うと人間関係を築く能力、対人関係能力のこと。

この社会性の発達に脳の働きがどう関わっているか、
それと関係する子育てや教育をどう考えるべきかといった内容。

■社会性と脳科学の研究
従来の脳科学は個人の心理と脳の関係の研究、
つまり、他者と関わっていない状態の脳についての研究がメインだったけど
最近は人と人との関係における脳の働きについても視野を広げているらしく、
本書の内容もそういった近年の脳科学の研究成果を踏まえている。

脳のどういった部位が社会性のどういうスキルと関わっているかが
具体的に述べられているけど正確さを期すためなのか、
脳の部位の名前が細かく書かれていて
一読してさっと頭に入りにくい…

例えばこんな感じ。
「他者の考えや気持ちを察する心の理論にかかわる内側前頭前皮質、共感や事の善悪を判断する道徳性にかかわる眼窩前頭皮質、意思決定にかかわる背外側前頭前皮質…」(p50)

これだけ読むと意味不明やけど
ここで出てきた部位に関する具体的な研究の内容や例が
後からちゃんと出てくるし、何度も図があるページ番号を参照して
そのページに戻りやすいように配慮がしてあるので親切。

何度も図を見直したけど、
社会性と一口に言っても脳のいろんな場所が
かかわってるんやなーということが分かる。


■他者の心を読む心の働きの発達…心の理論
本書のキーワードの1つが「心の理論」。
これは、比較心理学者デイヴィッド・プレマックが提唱しているもの。

具体的には「他者の心を読む心の働き」(p20)のことで
大体4歳頃に心の理論を獲得するらしい。

このことから、特に1歳から小学校就学前までの期間は
社会的知能やスキルを獲得していくための
重要な時期だということが述べられている。


■誤信念課題
紹介されている研究の中で面白かったのが
「誤信念課題」という課題についての話。

これは「子どもが他者の誤った信念や考えを理解しているかどうかを見る」(p115)もの。
具体的には、例えば、まず次のような話を子どもに聞かせる。

「マクシという男の子が、緑の戸棚の中にチョコレートを入れました。マクシが部屋から出た後で、お母さんがそのチョコレートを青の戸棚の中に移してしまいました。その後、マクシが部屋に戻ってきました」(p115)。

この話を聞かせた後、次のように質問をする。

「マクシは、どちらの色の戸棚にチョコレートをとりに行くでしょう。緑の戸棚かな、青の戸棚かな」(p115)

この質問を受けた子どもが、もし、
マクシは緑の戸棚にチョコレートがまだ入っている
と思っていること(=誤った信念)を理解していれば
緑の戸棚にとりに行くと正しく答えられる。

この実験の結果、以下のようになったとのこと。
  • 4歳未満では正解者がいない
  • 4-6歳では半数以上が正解
  • 6-9歳ではほとんどが正解

4歳未満の子どもの頭の中では
マクシと自分の知識の区別がつかず
「チョコレートは青の戸棚の中にある」ということを
マクシも知っていると考え、
青の戸棚にとりに行くと答えてしまうらしい。

こうしたことから、4歳未満の子どもは
まだ心の理論を獲得していない
=自分と他者の考えの違いに気がつかないということ。

ちなみに、これをうまく活かせば
子どもが嫌いなものでも、おいしいと言って食べてみせると
自分も食べることもあるということ。
好き嫌いの解消に役立つのでメモ。

本書では、こうした理論や研究成果を踏まえつつ
子供が社会性を身につける過程について述べられている。


■子供はいつ自分に気づくのか
トピックの中で面白かったのが自己認知についての話。
要するに、自分という存在があり、他者と異なる存在である
ということにいつ気付くのかということ。

これを確かめるために鏡に映った自分を
認識するかという実験が行われている。

具体的には、赤ちゃんに鏡を見せてどういう反応をするか見てみる。
鏡の映像研究の結果からは、
子どもが自己認知ができるのは
大体2歳頃だと見られているとのこと。

生後6-12カ月の時期は
乳児のほとんどが鏡に映った自分に対して
笑いかけたりほおずりしたり
鏡の映像を他者と見なすような反応をする。

12-24カ月の時期は
鏡の後ろに回り込むなどして
映像の性質を確かめようとする。

20-24カ月の時期になると、
困惑や狼狽などの反応をしたり
鏡を見ながら髪を整えたり口紅を塗ったりと
鏡に映った映像を自分だと認知するようになるらしい。

他にも、赤ちゃんの鼻に口紅を塗って
鏡を見せた時にどういう反応をするかで
自己認知の過程を推測したりといったこともやられているらしい。
これはなかなか興味深い。

言われてなるほどと思ったのが
この能力はどんな動物にも見られるものではなく
限られた動物で見られる特殊な能力らしい。

当たり前のことのようにとらえていたけど
確かに言われてみればこれっていつどうやって認知するのか
っていうのはなかなか興味深い。


■なぜ視線を読みとる能力が大切なのか
これも言われてみてなるほどと思った話。
人の視線の変化やその意味を知ることができる能力は
対人関係能力の中で重要なものの1つであるということ。

「他者の視線の変化に気づき、その人の内的情報を得ることのできる子どもは適切な対人行動をとることができますが、それができない子どもは対人行動をうまくとることができないでしょう」(p106)

こうした点から、子どもが他者の視線をどう読みとるか、
また、それに脳の働きがどう関与しているか
といった点についても社会脳研究において検討が進んでいるらしい。

キーワードとなるのが「共同注視」。
自分と相手が一緒に第三者、あるいは、何か物を一緒に見ることで
自分―対象―他者の三項関係のコミュニケーションになる。

具体的には、お母さんと子どもが一緒のものを見たり
「あれを見て」といった形で
同じものを見るように注意を向けたりといった形で
コミュニケーションをとる中で社会性が築かれるということ。

これと関連するのがアイコンタクトの話。
母と子の間のアイコンタクトは
まず最初のコミュニケーションの1つになるけど
母と子が同じものを共同注視することによって
アイコンタクトが社会性を持つようになる。

おんぶとだっこもこれに関連してくる。
おんぶすると母と子の視線が同じ方向を向きやすいので
共同注視が起こりやすくなる。
(例:母が指さしたものを子が一緒に見る)

だっこして顔をあわせるのも良いけれども
おんぶで親子で同じものを見ることで
共同注視の機会を多く持つことを通じて
子どもの社会性をより豊かに育てられると述べられている。

さらに面白かったのが、ビジネス書などで
相手を説得したかったら正面でなく隣り合って座ると良い
等と書かれているけどこれにも共同注視が関連していて
共同注視による連帯感が関わっているのかもと述べられている。


■表情や感情を評価することの重要性
脳の中の扁桃体っていう部位は
表情の認知や感情反応に関わっているらしい。

この扁桃体に関して、ゴルナズ・タビビニアという
神経科学者の方の研究の話が興味深かった。

被験者に怒った顔写真を見せた時と
同じ顔写真を見せて表情を評価させた時の反応の違い

  • 怒った顔写真を見る場合
    →扁桃体が活発に働き情動反応が起こる
  • 怒った顔写真の表情の評価をさせる場合
    →情動反応が低下

つまり、怒っている表情を見た際に
「この人は怒っているんやな」と
表情の評価をすると情動反応が弱くなるということ。

これを踏まえて著者は次のように述べている。

「子どもが感情的になっている時には、どんな気持ちなのかをことばで表すことで、その感情反応を弱める効果のあることを示しています。これはなにも、子どもに効果があるだけではありません。大人にも十分応用できることがらです」(p102)

セルフコントロールの話でよく
自分の感情を認識するとコントロールしやすいみたいな話があるけど
それのメカニズムはこういうところなのかなーと思った。

著者はまた、インターネットやテレビゲーム、ケータイ等による
電子化、情報化によって子どもたちが
人と直接顔をあわせてコミュニケーションする機会が減ったことで
社会的知能の発達が困難になったのではと危惧している。

こういう話も良く言われるけど
相互に顔をあわせてご飯を食べたり一緒に過ごしたりっていうのは
やっぱ大事なんやなーと改めて実感した一冊やった。

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