2013年1月28日月曜日

「事実に基づいた経営 なぜ「当たり前」ができないのか?」という問いの重要性を認識させられる一冊

事実に基づいた経営―なぜ「当たり前」ができないのか?

特にビジネスにおいて、一般的に「うまくいくはず」と信じられていて多くの企業で実施されている仕組みやその背景となる考え方について、必ずしも常に正しいわけではないということを示そうとしている本。

例えば、インセンティブや戦略を絶対視するような考え方に疑問を投げかけている。これまでの他の研究成果をたくさん参照しながら、具体的な事例も紹介しているのでそのあたりが面白い。

■半分だけ正しい常識
最初に概要を説明した後、個々のトピックについて1章ずつ割いて取り上げている。取り上げられているのは結構なじみが多く興味深いトピックが多い。

  • 仕事とプライベートは根本的に違うのか?違うべきか?
  • 業績の良い会社には優秀な人材がいる?
  • 金銭的インセンティブは会社の業績を上げるか?
  • 戦略がすべて?
  • 変わるか、さもなくば死ぬか?
  • 偉大なリーダーは組織を完全に掌握しているか?

他社がやっていることやよく言われることでも、「事実」を元にみていけば違った面が見えるのに、うまくいくと信じて盲目的に取り入れて失敗しているという主張。

ただ、この本自体は、通常言われるような見方に対して反するような見方を提示しているけど、そっちが完全に正しいと言っている訳ではない。

著者は「半分だけ正しい常識」という表現を使っているけど、全部正しい訳でも全部間違っているわけでもないという見方。


■リーダーシップがすべて?
トピックの中の1つで興味深かったのがリーダーシップの話。経営が成功するにしても失敗するにしてもリーダーの功罪が大きく取り上げられるけど果たして本当にそれだけなのかという見方。

ある学会誌ではリーダーシップの重要度や重要となるタイミングについて論争が続いているけど、細かい違いは別にするとほとんどの研究者は、一般的にはリーダーシップと業績の関係はそれほど大きくないという見解を持っているという。

もちろん関係が大きい時もあるけれど、ほとんど関係ない時もあるという点は一致しているらしい。これに関係して、30年以上も前にジェラード・サランシックという人が行った実験の話が紹介されていた。

「ある人が、線路を走るおもちゃの列車を走らせてくれるように頼まれた。観客は、その人が列車を走らせるのを見ていた。どちらにも知られないように、実験者が列車のパワーを上げたり下げたりして、列車のスピードが急に上がったり下がったりして、脱線が起こった。操縦者はすぐに自分ではどうしようもなかったことがわかった。観客は別の見方をした。観客には、走らせていた人のコントロール外でスピードが上がったり下がったりするのはわからなかった。その代わり、操縦者が列車を脱線させるのは見えた。操縦者ははっきりと見えたので、観客は列車の脱線を、実際にその原因となった見えない要因のせいではなく、操縦者の努力と能力のせいだとしたのである。これとちょうど同じように、企業を見ると企業を率いる人が見える。人の行動や企業の業績に影響する障害は見えない。だから、個人(リーダー)の行動が日に見えるということが、われわれの物事の解釈を左右するのである」(p272)

ここで言っているのはリーダーシップが全く関係ないということではなく、リーダーシップですべて決まるという見方はちょっと考えなおした方がいいんじゃないですか?ということやと思う。

リーダーシップは大事は大事やと思うけど、リーダーのもとで仕事をしているメンバーの頑張りもあるし、その他組織内外の要因もいくらでもある。

GEでウェルチ時代に大きなビジネスを率いていたスペンサー・クラークという人から著者が聞いたジョーク。

「ジャックはよくやった。でも、ジャックがCEOになる前も会社は一〇〇年以上続いているし、彼には助けてくれる七万人以上の部下がいたんだってことを、みんな忘れているよ」(p273)

これはその通りやと思う。ジャック・ウェルチは偉大な経営者やと思うけど、組織を動かして成功に導いたのは彼一人だけがやったことではないと思う。そういったことの1つ1つを無視してしまうと、本質が見えなくなるので注意していきたい。


■ズバッとした答えを求めるのではなく、バランスよく見ることの重要性
「半分だけ正しい」っていう表現からして、奥歯にものが挟まったような感じでもやっとするところもあり、ズバッとこうすればいい!という答えが提示されるような本ではない。

でもそれだけに、見方の幅を広げるという意味では良いと思った。翻訳された清水勝彦さんもあとがきで次のように述べている。

「「プラスとマイナスの両面を見る」ということは、意外に人気がありません。むしろ「こうすれば必ず成功する」「これがイノベーションのカギだ」「成功の秘訣はここにあった」という、プラス面ばかりを取り上げたビジネス書が毎年たくさん出ますし、またそういう書籍が売れているという現実があります」(p336)

これが答えだ!って言い切る本はたくさんあるけど、現実問題、それだけをやって何でもかんでもうまくいくっていうものではない。改めて、事実を常におさえることを意識し、事実を起点として考えていくことの大事さを感じさせられた。


■当たり前のことを当たり前にやる
このあたりの話は別に当たり前と言えば当たり前の話。ただ、その当たり前のことがなかなかできない。

この点に関しても、清水勝彦さんの言葉が印象に残った。

「「当たり前のこと」を愚直にすることが、差別化の第一歩だということです。「当たり前のこと」を馬鹿にして、それほど真剣に取り組む企業がなければ、「当たり前のこと」をするだけで立派な差別化になります。プロの選手は相手ピッチャーの失投を見逃さないといいますが、さまざまなクセ球を打つ「新しいテクニック」を探すのではなく、事実をしっかり見極め、チャンスを見逃さない基本のカこそが、業績を維持し続ける大切な点です。
 そしてもう一つは、こうした「当たり前のこと」を愚直に行うことは、何となくつまらないのではないか、ワクワクしないのではないかと思っているとすれば、実は全く反対だということです。「新しい」「成功の秘訣」をビジネス書やコンサルタントに求めることは、本当の意味での経営の醍醐味を放棄しているのです。事実を集め、「業界の常識」に挑戦し、そこで成功を勝ち取るほうが、どこかに書いてあったり、誰かの言ったとおりにしてうまくいくよりも、何十倍気持ち良いかしれません」(p2\338-339)


事実に基づく、事実を見るっていうのは言われれば当たり前なんやけど、その大事さと難しさを改めて感じさせてくれる一冊やった。

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