2013年4月13日土曜日

「危機の経営 サムスンを世界一企業に変えた3つのイノベーション」から学ぶ本当に必要な「技術力」の意味

危機の経営 サムスンを世界一企業に変えた3つのイノベーション

サムスンを題材として日本のものづくりに必要なことを知識化するために立ち上げた研究会をベースとした本。

著者のお二人は、失敗学で有名な畑村洋太郎さんと、サムスンに10年務められた吉川良三さん。

最後の方で、「そもそも日本の多くの企業が「自分たちは技術力がある」と思い込んでいること自体が、一種の倣慢なのです」(p219)と述べられているように、「技術力」に対するパラダイムを転換させられる内容。

この点も含め、日本のものづくりがなぜ失速しているのか、これからどういう方向を目指すべきかということが、サムスンの躍進を例に説明されている。


■サムスン躍進の理由
サムスン躍進の理由として、3つのイノベーションがあげられている。
  • パーソナル・イノベーション
  • プロセス・イノベーション
  • プロダクト・イノベーション
そのうち、特に力が入って説明されているのがプロセスやプロダクトのイノベーション。
狭義の意味での「技術」では日本企業の方が優れており、サムスンには独自の技術を使った製品がないにも関わらず、サムスンの方が躍進できたのは「社会が求めていることを実現するための手段としての技術」(p6)が日本企業よりも優れていたからということ。

サムスンは、技術のキャッチアップが速い上に、「技術の使い方がうまい」(p87)。製品を消費者が求めている形にして提供することで、技術そのものを開発した本家を上回っている。


■「グローバル化」の意味の違い
逆に、日本企業は、ここ10年のものづくりにおける環境変化に対応できていない。それを一言で言うと「グローバル化」と「デジタル化」の意味の誤解。

グローバル化というと単に現地法人を置いてどんどん海外に進出すれば良いということではなく、真の意味での現地の市場やニーズを理解し、そこにあった適正な製品を開発し販売しサービスを提供していくということ。

サムスンはこれができており、その背景には徹底した現地の研究を行う地域専門家の存在がある。逆に、日本企業は海外に行っても日本流の延長でしかなく、現地のニーズに合った製品やサービスの提供ができていない。

冒頭に引用した文章の続きをひくと…

「実際、いまの日本の企業には、サムスンや夕夕自動車のような新興市場向けの安価な製品をつくる技術はありません。もちろんお金をかければ同じようなものをつくることができますが、それではビジネスとして成立させることができません。にもかかわらず、「自分たちは技術力がある」と信じて疑わないのは、倣慢以外のなにものでもありません。
 革新的なものをつくることだけが技術力ではありません。本当に技術力があるなら、新興市場に打って出て立派にビジネスとして成立させることも容易にできるはずです。残念ながら、いまの日本にはそのような技術力を持つ企業はほとんどありません。私たちはそのことをまず謙虚に認めるべきです」(p219)

「技術力」「高品質」や新興国市場に対する認識を改めて、そこで求められていることをしっかり汲み取って製品化していくことが必要ということが述べられている。

最後に、1997年のアジア通貨危機の時の話で、サムスンでは業績が落ち込みこそすれ粉飾決算こそありませんでしたというようなことが述べられていたけど、先日読んだ「サムスンの真実」を読むとどうなんやろうと思う…

そういう意味では、本書はサムスンの光の部分に焦点を当てた本で、サムスンの真実は影の部分に焦点を当てた本かと思うので両方あわせて読むとなかなか興味深いかもと思った一冊やった。

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