2013年4月15日月曜日

「シリア アサド政権の40年史」から見えてくる中東情勢やメディアのあり方

シリア アサド政権の40年史 (平凡社新書)

2006年から約4年間、シリア大使として駐在された著者が、駐在時の経験、公的な情報や個人的に集めた情報をもとにシリア情勢について記した本。

「アサド大統領」と聞くと、なんとなく悪の枢軸みたいなイメージがある人は、ぜひ読んでみてほしい(自分もそうでした…)。

複雑な中東情勢を反映してか、あまり読みやすい本ではないけど、「シリアを眺めることで、現代史における中東世界が見えてくる」(p73)ということがよく分かる。


■シリア情勢に対するあまりにもの偏向報道
背景となる問題意識としては、シリア情勢に関する報道の「危うさに肝を冷やす思いをたび重ねている」(p10)ことがある。また、シリア国内での民衆蜂起に始まる一連の出来事について、「「アラブの春」というきれい事のように理解するのは適当だとは考えていない」(p11)と述べられている。

報道は、反体制派の情報に偏っており、事実誤認だけでなく、捏造も少なくない。中東の報道局として名高いアルジャジーラでは、あまりの捏造ぶりに記者が辞めていったりしている。国連機関の報告書も意図に偏りがある場合もある。

よく使われる説明やイメージは、平和的にデモ等の運動を行う反体制派に対し、軍隊を使って強権的、暴力的に弾圧する政府側…という構図で語られることが多いけど、実態はそんなに単純ではない。

反体制派内でも内部抗争があり、しかも国内でかなりひどい非人道的行為を行っている。また、反体制派に対する国外からの支援が陰に陽にある。そして、国際社会では反体制派の情報だけが無批判に受け入れられている。

また、9.11の後、アメリカの諜報機関に対してアルカーイダの情報を積極的に提供し、協力しており、アメリカの諜報機関ではシリア諜報機関の協力が高く評価されていたが、大統領や国防総省幹部とは共有されず、結局敵対的な発言ばかりがアメリカからは聞こえてくることになっている。

今まで自分が持っていたイメージは、アメリカ発信の情報に偏ったイメージやったんやなーということがよく分かった…


■バシャール・アサド大統領のイメージについてのパラダイム転換
こうした偏向報道がある一方、政府側、特に大統領は穏健的な改革を進めようとしており、実際に数々の法制度の改革を行い、新憲法も実現した。内容にはもちろん批判はあるものの、「今日のアラブ世界にあって極めて先進的」(p52)なもの。それにも関わらず、こうした動きや大統領の発言がとりあげられることは少ない。

バシャール・アサド現大統領は、元々は眼科医になることを目指していてイギリスにも留学していたことがあるという。大統領夫妻の生活はつつましく、国民からも好意的にみられているということ。

象徴的なのが、大統領にインタビューした欧米のジャーナリストのコメント。例えば、イギリスのザ・テレブラフ紙では以下のように語られている。

「アラブの独裁者に会うというと、厳重な警備の中を幾重もの検査を受けながら通り抜け、堅苦しい儀典をきっちりと守って天を突くような巨大な宮殿の中で、役人に囲まれた相手の独白をうやうやしくうかがうといったことを想像するが、アサド大統領はその対極にあった。担当の若い女性が一人で迎えにきて、彼女の案内で十分も自動車に乗ってある地点で間道に入ると、そこには門がなく、門番もいない。そして英国ならば国外の別荘のような建物があった。その建物のホールで大統領はわれわれを待ち迎えてくれた」(p46)

また、サンデー・タイムズの記者は次のように述べている。

「大統領はまるで青年実業家かと思ってしまうような人物だった。ダークスーツを着て、自分でかばんを提げてはつらつとした雰囲気で人民会堂に入ってくると、周りの職員たちと挨拶を交わしている。そんな姿を見たとき、誰がその人物を大統領だと思うだろうか」(p46)

今まで、「アサド大統領」と聞くとなんとなくで独裁者みたいなイメージがあったけど、そのイメージとは全然違う像が描かれていた。つくづく情報っていうのは両義的に見らんとやな…と思った。


この本自体はどちらかというと、シリア寄りの内容になっていると思うのでその分は割引いて考える必要があるとは思うけど、それにしても今までの報道がえらく偏っているので、例えこの本が多少シリア寄りだとしてもバランスがとれるくらいやと思う。

中東情勢だけでなく、メディアのあり方についても考えさせられる一冊やった。



0 件のコメント:

コメントを投稿