2013年3月25日月曜日

「平成史」から今の社会構造を改めて把握し直す

平成史 (河出ブックス)

タイトル通り、平成の歴史について、6人の共著者がそれぞれのテーマについて書いた本。2012年10月の発行なので、東日本大震災やそれに伴う原発事故まで射程にいれて記述されている。

結構分厚くて3cmくらいあるけど、中身は結構つまっている。扱われているテーマは、政治、地方と中央、社会保障、教育、情報化、国際環境とナショナリズム等。最初に小熊英二さんによる総説がある。


■平成史の描き方
序文では、そもそも「平成史」と言った時に何を描くべきかという問いから始まっているのがなかなか興味深かった。

その理由は大きく2つあり、1つは歴史というには近すぎること、もう1つは平成の時代を代表するものを定めづらいことが挙げられている。

これに対し、1つ目の点については、例え直近のことであろうと、「冷戦期に栄えた日本の体制の終わりの過程」(p5)を描くことは問い直しておく意義があることが述べられている。

2つ目の点については、時代的に特定の人物や事件に歴史を代表させることが難しいことから、王朝史のように特定の人物や家系をおっていったり、あるいは、時代に特徴的な事件をおっていったりするのではなく、社会構造の変化を描く方向性で整理している。

歴史という時に人物史や事件史をイメージすると、この本の内容は違ってくるけど、あえてそうした記述方法をとって整理されている。その分、日本社会の昭和期から平成期にかけての構造変化をつかむのに参考になる内容になっている。


■そもそもの二重構造
1つ印象に残ったのは二重構造の話。特に最近、格差社会という用語が広まってきて、正社員と非正社員、中央と地方等、格差に対する意識が強まってきているけど、それを生み出している構造は最近になってできたものではなく、そもそも高度成長期からそういう構造だったということ。

高度成長期は、それが目立ちにくかったり問題視されたりする状況ではなかったのが、最近になって顕在化していたという。

具体的には、女性、地方、若者、中小企業は二重構造の「周辺」「底辺」に位置づけられてきた。高度成長期には、労働力不足により若年層確保のため初任給も上がり、終身雇用をアピールする企業も多くなったので格差が目立たなかったが、実際問題、終身雇用が成り立つくらいの規模の大きな企業の社員は、1970年ですら雇用者全体の1割にすぎなかった。

また、未婚女性、主婦、学生、高齢者を構成員とする「第二労働市場」は、1980年代半ばの時点で全雇用者の60-65%を占めていた。

つまり、
「雇用の不安定化は、日本ではおこらなかったのではなく、周辺化され目立たなかっただけであった」(p37)
ということ。

こういう構造があったけど、大企業の景気と雇用が安定していて、その恩恵が下請け企業や、男性正社員の家族である主婦や学生の労働にも及んでいて、低賃金でも問題ないとされていたという。その他、日本社会全体が若かったことや、地方や中小企業への保護政策が要因としてあげられている。


■構造転換の遅れ
地方や中小企業への保護というところと関連して、公共事業の話があったけど、建設業者の数の増加の話は意外やった。高度成長期に増えてその後バブル崩壊でどんどん減少していっているのかと勝手に思ってたけど、実は、90年代を通じて増加している。

建設業者の数は、1989年度に50万9千社だったのが1999年度には60万1千社に達する。さらに、1998年には数業者のうち10%強を建設業が占めて、1965年の2倍近くの比率となったという。このあたりは公共事業によって下支えされていて、公共事業のGDP比率も他の先進国と比べて高い水準。

そもそも、1970年代後半から、ポスト工業化への波は日本にもやってきていたけど、ドル高、バブル景気、補助行政で、産業構造転換に伴う現象が顕在化せず、引き伸ばされていて、それが一気にやってきて問題となったのが1990年代だったということが述べられている。

総説のおわりでは、「平成史」を一言で表現すると次のようになると述べられている。

「「平成」とは、一九七五年前後に確立した日本型工業社会が機能不全になるなかで、状況認識と価値観の転換を拒み、問題の「先延ばし」のために補助金と努力を費やしてきた時代であった。
 この時期に行なわれた政策は、その多くが、日本型工業化社会の応急修理的な対応に終始した。問題の認識を誤り、外圧に押され、旧時代のコンセプトの政策で逆効果をもたらし、旧制度の穴ふさぎに金を注いで財政難を招き、切りやすい部分を切り捨てた」(p82)

この結果、「漏れ落ちた人びと」が増えているとまとめられている。これは企業をはじめとする経済構造だけでなく、社会保障などの福祉の面からも同じような構造があることも他の章で整理されている。

男性正社員と主婦による家族を想定した社会となっていたことはよく言われていてイメージしていたけど、その背景となる構造も含めて理解できた。もちろん、この本の著者の見方がすべてではないけど、1つの視角としては参考になる。

また、本書の最後では次のように述べられている。
「「平成史」とは、一言でいってしまえば、「冷戦期で時間を止めてきた歴史」である。ある国が、自国が最盛期だった時代を忘れられず、その時代の構造からの変化に目をつぶってきた歴史と言ってもよい」(p464)

平成はまだ続いていくけど、これからの日本を考える上で社会構造を把握するために読んでおいて損はない一冊やなーと思った。構造変化に目を開いていかんと。


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