2013年3月7日木曜日

「温泉教授の温泉ゼミナール」から見る日本の温泉のこれまでとこれから

温泉教授の温泉ゼミナール (光文社新書)

わが国で唯一の(?)温泉学教授として大学で「温泉文化論」を教える著者が温泉の現状について記した本。著者はなんと、執筆当時までで合計4200湯以上に浸かったらしい。出版が2001年やから今はさらに増えてるやろな…この数はすごい。

著者の想いは以下のようなもので本書の中でも繰り返し語られている。
「真の温泉を守り育てるには、われわれ世界一温泉を愛してやまない日本人が温泉の現状をしっかり認識しなければならない」(p10)

温泉紀行のような内容を想定していたら、中身は全然違った。循環風呂や温泉の集中管理など、温泉をめぐる「危機」について記されている。どっちかっていうとルポみたいな感じ。初めて知る事実も多く勉強になった。

温泉の危機の話の他にも、今求められているのはどういう温泉か、湯布院や黒川のまちづくり、城崎の現状、熱海の復活はなるか等といったテーマも扱われていて面白かった。


■温泉の「危機」
内容について、タイトルはわりと平坦な内容やけど、中身の指摘は結構厳しい。半数以上のページを割いて記しているのが温泉の「危機」について。

冒頭から、レジオネラ菌の問題から始まる。当時は結構話題になったものの、今はあまり話題にのぼることもない話題やけど、これが温泉の危機に結びついているとは認識できていなかった。

どういうことかというと、レジオネラ菌の集団感染が発生した要因として、循環風呂であったことがあげられている。すべてではないものの、かなりの数にのぼる「温泉」施設では、水を循環させて濾過して塩素で殺菌しながら繰り返し利用している。

お湯の入れ替えも、毎日行うようなところは少なく、週に数回、頻度が少ないところだと数カ月に1回というところもあるらしい。

また、温泉の源泉からのお湯では足りない分について、水道水や川水を加えることもあるらしい。

「昨今の温泉は限りなく水道水化している」(p46)

とも述べられている。また、水蒸気を冷やして利用することもあるとのこと。

しかもそれが法律上は問題ない。さらに、自治体が建ててきた「公共温泉」では循環風呂が多く、本来の温泉の姿からは遠い。始末が悪いのが、自治体の施設は立地が良いところに建てられることが多いので、民間の施設を圧迫したりすること。

著者は次のように述べている。

「公共温泉が日本の温泉を堕落させる元凶なのである。まさか温泉を看板に掲げながら温泉モドキの湯で集客していると疑う住民はほとんどいない。お上には間違いはないからである。それだけに責任も重い」(p63)


■循環風呂の見分け方
こうした循環風呂の見分け方はいくつかあるということ。

  • 湯が浴槽からあふれているか否か
    これで完全に見分けられるわけではないが、あふれていたら循環風呂ではない可能性が高いということ。
  • 浴槽の内側に湯の取り出し口がついている
    お尻を当てると吸い込まれる口のこと。
  • 湯口から浴槽に大量にお湯が注がれている
    大量に注ぎ込んでいるお湯があふれていない→循環しているということ。
  • ホンモノの温泉で湯温が高い場合、湯温を下げるために湯量を少な目に調整している
    ドバドバ湧いてくるのがホンモノではなくむしろ逆の可能性が高い


■ユーザーによる選別が大事
著者の問題意識は次のような一文にもあらわされている。

「旅行作家である私が、なぜ循環風呂や温泉の集中管理について書き続けているのか。それはひとえにこれらの情報が、ユーザーである旅行者に正しく伝わっていないと考えているからだ」(p112)

循環式かどうかといった点から、成分の情報まで、温泉情報の「ディスクロージャー」をすべきだと主張している。

そして、ユーザーである旅行者の側が、こうした情報を元に、温泉に行った時にその施設の人に対してこうしたことを確認していくことを提案している。

「お宅は循環風呂ですか」と直接的には中々聞きづらいかもしれないが、温泉を守るためには大事なことなのかもしれないと述べられている。


温泉というと、こんこんと湧いてくる源泉からの新しいお湯をどんどん利用しているようなイメージやったけど、現状はそういうところは少ないということか。もちろん、そういうところもあるけど、増大するニーズに対応するために姿を変えていったということ。

温泉のこれまでと現状をみていくと、日本の経済成長の歴史とも重なっている。温泉のこれからを考えていくことは、日本のこれからを考えていくことにもつながるのかなーとも思った一冊やった。

あと、「日本秘湯を守る会」っていうのがあるらしい。Webサイトもきれいやし、チェックしてみようー。


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