2012年12月20日木曜日

倫理の授業をとっても良かったなーと思える「高校倫理からの哲学3 正義とは」


正義とは (高校倫理からの哲学 第3巻)

高校の「倫理」の教科書の副読本的な立ち位置で編まれたシリーズなのかもしらんけど、大学生や社会人が読んでも良い内容。

テーマそのものは普遍的なものなので、高校生意外にも通じるテーマやし、書き方は平易やけど内容はかなり深い。

また、西洋の考え方だけではなくて、中国や日本の思想にもかなりページを割いていて、日本人のルーツやものの見方を踏まえながら考えていけるような内容になっている。

高校の時に「倫理」ではなく「現代社会」をとってそれはそれで良かったけど、この本を読んで「倫理」をとっても良かったなーと感じた内容やった。


■いろいろな人の正義
この巻では「正義とは」というテーマで「正義」についての考え方や問題を扱っている。そして、人によって「正義」が異なるということを具体的な例を交えながら示している。

例えば、冒頭からいきなり「生きながら火に焼かれて」という本に書かれている中東の「名誉の殺人」を扱っている。

これは、女性が婚前に男性と性交渉を持ったりした場合等に、家族の名誉を守るために家族の手で女性を殺害するという風習。

一見、自分たちの文化からすると理解しがたいように感じられ、本の中でも会話の中で非難する登場人物が出てくる。

しかし、そこで、捕鯨の問題を考えたらどうだろうという問いかけが出てくる。

捕鯨については日本人はなんて残酷なんだと世界から避難されている。このことを考えたら、世界の多数派が正しいと思っているからと言って一元的に正義が決まるわけではないのではという展開をしている。

そこからさらに、人の命と動物の命の場合は違うのではないかという声が出てきて、さらにそこに対しては動物の権利に関する話へと展開していく。

こういう形で多層的に多元的に考えられるようになっていて、考えさせられることが多かった。



■ルールを守ることの重要性とルール自体の正しさの話は違う
もう一つ印象に残ったのが、法に代表されるようなルールを守るべしという話と、それ自体が正しいかどうかはまた別の問題という話。

会話の中である登場人物が次のように言っている。

「法を守らなきゃいけないっていう話と、法は絶対に正しいかっていう話はやっぱり別の問題だっていうのがわかりました。法律は拘束力が強くって、たまに変な決まりや悪い法があったとしてもみんなでそれを守らなきゃいけない。そうしないと社会がグシャグシャになっちゃうから。でも変な決まりは変、悪い法は悪いと言っていいんだし、そうやって批判することによって今ある法をよりよい法へと変えていくことは必要なことだろうと思うんです。だから、法は守らなきゃいけないけど、でも、法が正しいかどうかっていうことはそれとは別の問題としていつでも議論していいんですね」(p26-27)

これは会社の運営とかでも通じると思う。例えば妥当性を疑うような方針や規則があった時に、それを個人の考えだけで守らないと組織としての統制がとれない。

もちろん、妥当でないものは改善していかなければならないので、そういう建設的な批判をやることは重要だと思うけど、単に自分一人で勝手に守らないっていうのは少し違うんじゃないかなーと思った。



■功利主義の意義
個別のテーマの中で見方が変わったのが功利主義の意義について。

功利主義は、「最大多数の最大幸福」という言葉が有名やけど、これだけ聞くと、機械的に多数派の意見をとれば良いというように感じていた。

しかし、元々は産業革命が進行中のイギリスで提唱された思想で、既得権を守ろうとする上流階級に中産階級や労働者が不当に虐げられる状況をみて、政治・社会改革のための思想として展開されていたもの。

要するに、上流階級という少数だけが幸福になっている状況を打破するために、より多くの範囲の人の幸福を基準にすることで、中産階級や労働者の権利も向上させようとしたということかと思う。

ベンサム自身、議会や選挙制度の改正、多くの改革案を提言し、弟子が選挙法改正などで活躍したとのこと。

「「最大多数の最大幸福」をスローガンとする功利主義は、権力を握る社会の一部の人びとを批判し、より多くの人びとが幸福に暮らす社会を作るための改革の思想でもあったことを覚えておく必要がある」
(p48)

そういう社会背景と意図の元で生まれてきた思想やったんやなーということを恥ずかしながら知らんかったんでだいぶイメージが変わった。

高校の授業とか試験も「功利主義を唱えたのは誰か?」みたいな丸暗記だけじゃなくて、もっとその意義とかその考え方を今に照らし合わせるとどうなのかとかそういうことを考えられるような内容になればいいのになーと思った。まあ限られた授業時間とかでそれを詰め込むのは難しいかもやけど…


他にもいろいろな論点が扱われていて、歴史的な思想を整理しつつ現代的な課題もとりあげられていてバランスが良い一冊やった。

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