2012年12月27日木曜日

生命の「動的平衡」話と文化的な伝統の話との共通点が面白かった


動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか

元々が雑誌の連載なので、1冊で話題が一貫しているという感じではないけど、1章1章である程度話が完結しているので読み進めやすい。

専門的な話はあまり深入りせずに、概要を触れる感じ。説明する際も比喩やストーリーを使って説明しているので分かりやすい。

この著者の本を読むのは「生物と無生物のあいだ」「世界は分けても分からない」に続いて3冊目やけど、その中では一番読みやすかった気がする。

話題も親しみやすいものが選ばれていて、例えば、ドカ食いとチビチビ食いのどちらが太りやすいかとか、コラーゲンをたくさん摂取すれば肌の張りを取り戻せるかどうか(ちなみに答えは否)とか。

比喩や表現も分かりやすくて、人間の体はチクワのようなものといった表現を使ったり、スター・ウォーズを引き合いに出したりしている。


■生命とは機械ではない
本書全体を貫くキーワードが、タイトルにもある「動的平衡」。それと関連するのが「生命とは機械ではない」という話。

「生命とは機械ではない。そこには、機械とはまったく違うダイナミズムがある。生命の持つ柔らかさ、可変性、そして全体としてのバランスを保つ機能―それを、私は「動的な平衡状態」と呼びたいのである」(p163)

これは、生命のことについて考えるときに、「メカニズム」として見がちであることに対する警鐘。

1つ1つの細胞を機械のの部品のようにとらえて、それらを全部集めて組み合わせれば全体が完成するというようなイメージがあるが、そうではない。

「合成した二万数千種の部品を混ぜ合わせても、そこには生命は立ち上がらない。それはどこまで行ってもミックス・ジュースでしかない」(p136)

決まった部品を組み合わせればできあがるというのは、機械論的、静的な生命観。でも実態は、人間等の生命の身体を構成する細胞は随時入れ替わっている。入れ替わりつつも、記憶を保ち全体のバランスを保っている。

このことを著者は、生命とは「淀み」のようなものだと表現している。常に入れ替わっていく流れの中で、少しだけ留まってなにものかを形成している状態、それが生命だと。「淀み」とだけ聞くと良いイメージがないので、エーッって思っちゃうけど、動的平衡の説明を読んだ後だとなんか納得できた。


■ペニー・ガム思考法
他に紹介されていたトピックの中で、「ペニー・ガム思考法」の話が印象に残った。

生化学者のルドルフ・シェーンハイマーという人が言っていた話。ガムの自動販売機を使った例え。自動販売機にペニー硬貨を入れるとガムが出てくるけど、これはペニー硬貨が自動販売機の中でガムに変わって出てきたわけではない。

確かにこういうふうに考えちゃうと本質を見落としちゃうよなーと。


■伝統と革新と動的平衡
機械論的な生命観の話とも関連するけど、サステイナブル=持続可能であるということはどういうことかという以下の話は示唆的やった。

「サステイナブルであることとは、何かを物質的・制度的に保存したり、死守したりすることではないのがおのずと知れる。
 サステイナブルなものは、一見、不変のように見えて、実は常に動きながら平衡を保ち、かつわずかながら変化し続けている。その軌跡と運動のあり方を、ずっと後になって「進化」と呼べることに、私たちは気づくのだ」(p233)

これって、伝統に関する話でもよく言われる気がする。伝統とは単に古いものを旧態依然としたまま守っていくのではなくて、伝統の精神はそのまま活かしつつも時代にあわせながら革新すべきものは革新していくというような言葉を聞くことが時々ある。そういう話を思い出した。

著者はまた、以下のようにも言っている。

「生命、自然、環境―そこで生起する、すべての現象の核心を解くキーワード、それが《動的平衡》(dynamic equilibrium)だと私は思う。間断なく流れながら、精妙なバランスを保つもの。絶え間なく壊すこと以外に、そして常に作り直すこと以外に、損なわれないようにする方法はない。生命は、そのようなありかたとふるまいかたを選びとった。それが動的平衡である」(p254)

文化の話も、静的に同じものをそのまま続けていくだけだとダメやと思うけど、それは生命の根本的なあり方自体もそうなんやなーと思ってなかなか興味深い。

「動的平衡」っていうキーワードは生命だけに限らず組織や文化をみる視点にも通じる気がするし面白いなと思った一冊やった。

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