2013年2月21日木曜日

文章の美しさに感動を覚える「にっぽん虫の眼紀行―中国人青年が見た「日本の心」 」

にっぽん虫の眼紀行―中国人青年が見た「日本の心」 

著者は中国から留学生として来日した後、社会科学系の研究所を経て商社に勤務して日本で生活されている方。

商社勤務のかたわら「歎異抄」の中国語訳を出版されたというからスゴイ。その後も中国語と日本語による文筆活動を継続されたとのこと。

著者の経験1つ1つに関する情景や心の動きが丁寧に描かれている。トピックも著者の子ども時代の話から、日本での経験まで様々。

例えば…

  • 桜の開花予報について
  • 花見の場での桜酒をつくる夢を持っている人との会話
  • 終電の中で見た酔っ払いの様子
  • 地下に八百屋がある理由
  • 明石海峡の橋の工事でカモメと交流する若者
  • 莫言さんへのインタビュー(最近ノーベル文学賞を受賞された方)
  • 神戸の震災
  • 等々

時代としては少し前やけど、流行り廃りとは関係ないテーマが多いので今読んでも新鮮な感じがした。


■まるで短編小説を読む、短編映画を見ているような気になる文章
読んでいる間は、完全に日本語ネイティブではない方が書かれた文章であることを忘れとった程文章が整っている。これは驚異的。著者の方はとても感性が豊か。文章も抒情的で、1つ1つの話が物語のようで美しい。

途中からは短編小説集を読んでるような感じがするなーと感じてたら、読み終わってカバー裏を見返したら解説に「ひとつひとつがあたかも短編小説のような繊細な味わいと余韻を残す、異色のエッセイ集」と書いてあった。

また、文章はとても映像的で、読み進めると情景が浮かび上がってくる。小説なんじゃないかと思えるほどドラマチックな話もあって、短編映画を見ているような感じでもあった。


■国という概念は個人の経験の積み重ね
内容は、「ひとりの中国人が描いた日本」(p232)というもの。時代としては1980-1990年代くらいの話が中心。「虫の眼」とタイトルにつけているように、全体的な日本、日本人論という大きな話よりは、著者自身の個別具体的な経験からの話がほとんど。

こうした書き方をした理由は、「あとがき」での著者の次のような言葉にあらわれているように感じた。

「私にとって、国という概念は個人の経験の積み重ねであり、ほかでもなく人の直観そのものである。一個人が語るその国の姿は、多くの場合においてもっとも説得力を持っていると私は思うのである」(p235)

自分の場合は、仕事で何度か行ったインドのことを思いだしたけど、行く前はインドっていうと、カレー、IT、数学みたいな漠然としたイメージしかなかった。

実際に行った後で思い出すのは、全体的なイメージというよりは、個々の出会いや会話、体験。カレーも思い出すけど、会社の食堂での食事や同僚に招かれて家でご馳走になったものだったりする。そしてそうしたものの方が、グッと自分に迫ってくる感じがする。

「国という概念は個人の経験の積み重ねであり、ほかでもなく人の直観そのもの」という言葉は覚えておきたいと思った。


■中国人観光客の誘致 留学生の情報発信を生かせ
現在はどうされているのかなと思って検索してみたら、神戸国際大学で教授をされている様子。

2013年1月26日の朝日新聞の朝刊で
「中国人観光客の誘致 留学生の情報発信を生かせ」
という記事が載せられていて、この内容も興味深いのでオススメ。
http://amaodq.exblog.jp/19692201/

領土問題とかがあると、国と国との観念的な関係を考えてしまいがちやけど、この本でも書かれているように、個人の体験の積み重ねをベースにして考えていくとまた違ったものが見えてくるなーと感じた一冊やった。

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