ブータン、これでいいのだ
ブータンで1年間くらい、政府のアドバイザーとして働かれた方が、ブータンでの経験から感じたことをつづった本。元々日経ビジネスオンラインの連載の方も読んでいて面白かったので本も読んでみた。
ブータンと日本の文化の違いから感じたこととかが、自分がインドに行った時やインドとのやりとりで感じたこととも通じることがあって共感しながら読めた。文体も明るい感じの口語調で話を聞いている感じで読みやすい。
著者紹介をよく見たら1985年生まれということで自分より年下やったのにちょっとびっくりしたけど、年代的には近いのでそのへんもあって違和感なく読めたのかも。
■ブータンは幸せの国?
ブータンというと、GDPではなくGNH(Gross National Happiness:国民総幸福量)の向上を目指すというビジョンを掲げていて、ヒマラヤの山で素朴につつましく暮らしている…みたいなイメージがある。
本書では確かにそのイメージにも合うような話も紹介される。例えば…
- コミュニティのつながりが強い
- 家族との生活を大切にしていて17時(冬は16時)くらいには退社する
- 政府で働く官僚も手帳もカレンダーを持たず頭で記憶できる範囲(1-2日)でしか予定を立てない
- 農村部では夜這いが残っている、結婚していても恋愛することに力を入れたりする
- 失敗しても許される文化がある
あと、面白かったのが、今の国王の話。今の国王は国民との距離感が近いとのこと。例えば、「今、国王はだれだれと付き合ってるらしいよ」とか「先週、バスケットボールコートで見かけたよ」「えー、マジかよ」「いや、国王よく来てるよ」とか国民の間でされとったらしい(笑)
ブータンの面積は九州と同じくらい、人口は68万人くらいで島根県とか練馬区・大田区と同じくらいらしい。このくらいの国ならではやなーと思う。
ただ、著者も言ってたけど、日本とブータンは国のサイズも成熟度も違う。その中で単純に比較しても、例えば大企業とベンチャーを比べるようなもの。もちろん参考にできる部分とかはたくさんあるけど、その背景を踏まえた上で考える必要があるということ。
あと、上記のようなこういう素朴や幸せのイメージだけではなく、以下のようなシリアスなテーマも扱われている。
- 中国とインドという2つの大国に挟まれていかに舵取りをしていっているか
- グローバル化による影響
- 都市部では若年層の失業率が高い
- 財政においてインド等の国からの援助の占める割合が小さくない
- それにも関わらず国内で非熟練労働はインド人が担っていたりする歪んだ構造がある
■「仕方がない」と割り切る力
1つ興味深かったのが「割り切り力」の話。
「ブータンの人々は「人間の力では(または自分の力では)がんばってみてもどうにもできない」と思っている範囲が日本人よりずっと大きいのではないか」(p93)ということ。
これは良し悪しで、良い面としては失敗をしてもしょうがないということで過度なプレッシャーが生まれずに気楽に取り組める。
逆に悪い面としては仕事が期限通りに進まなかったとしても笑って済ませてしまったり、失敗してもあまり学ばない。これが医療の場になると結構重大で、助からなそうと見えた人を諦めてしまいがちといった話もあった。
このあたりはホント良し悪しやと思う。悪い面を無理に直すと良い面にもたぶん影響が出る。このあたりをどう考えて調整していくか。
この点に関連して、著者とブータン人のマネージャーの方との話が印象に残った。
「「ブータン人ガイドへのお客様からのクレームって、やっぱりまだまだある。ちゃんとエスコートできてないとか、気が利かないとかの指摘が多いんだ。お客様の足が泥沼にはまってしまった時『大丈夫ですか!』と心配するのではなくて、ケラケラ笑っていた、とかね(苦笑)。産業として、やっぱりトレーニングを強化していかないとね」
それに対して、私はこう答えました。
「うん。でも、ブータン人らしさがよかったっていうお客様もいるよね。言葉遣いや態度は粗野なんだけど、古くからの友人のように心温かく接してくれているのが分かる、とか。ガイドが自分の実家に連れて行って大家族全員を紹介してくれてうれしかった、とか。どこの国にもあるエレガントなエスコートだけが目指すべきものではないかもしれないよね」
「そう、そうなんだよね」
「バランス、かな」
「うん、バランス。難しいね」
こんな話題で今日も夜が更けていきます。」
(p101-103)
自分の場合、インドの開発チームとやりとりする時にちょっと似たようなことを感じる。
日本向けにいろいろ細かな対応をやってもらおうとすると、本体のスピードとか効率性を犠牲にしてしまう部分が出てくる。でもそうしないと日本市場では受け入れてもらえづらかったりもする。
このあたりは著者も例で紹介していたように結局バランスなんかなー。
■幸せになろうと思ったらね、自分の幸せを願ってはいけない
あと、幸せについて、ブータン人の友人や上司の人が言っていた話が良い言葉やった。
「あるところにいて文句ばかり言う人は、別の場所に行ってもきっと文句ばかり言う。今いる場所で幸せを感じられる人は、別の場所に行ってもきっと幸せを感じることができる。そういうもんさ」―ブータン人の友人
(p202)
「幸せになろうと思ったらね、自分の幸せを願ってはいけないんだ。自分の幸せを探し出したら、どんどん、幸せから遠ざかってしまうよ」
「これはとても大切なことなんだ。幸せを願うのであったら、自分の幸せではなく、周囲の人の幸せを願わなくてはいけない。家族だとか、友人だとか、自分の身近な大切な人たち。そして周りの人たちが幸せでいられるように、できるかぎりのことをするんだ。知ってるかい? 人のためになにか役に立つことをして、相手が幸せになるのを見ると、自分にもとても大きな満足感が返ってくるんだよ。それは、自分のためになにかしたときより、ずっと大きな満足感なんだ。幸せになりたかったら、まず、周りの人の幸せを願って、そのためになにかすることが大切なんだ。自分の幸せを探し出したら、幸せは、みつからないんだよ。ブータン人は、それをみんなよくわかっている」
―GNHコミッションの長官
(p213)
このあたりの言葉は心に留めておいて、定期的に見返したい
■できることにフォーカスする
もう1つ良い言葉やな~と思ったのが次の言葉。
「そもそも、僕たちができることなんて、限られているんだ。だから、自分にできることを、等身大でがんばればいい。できることを、すればいい。僕たちの国王はいつもこう言っているんだ。『小さくても、できることをすればいい。最初は小さな動きでも、いいものは、波紋のようにどんどん広がっていくんだよ』 ってね。
だから、自分がどうにかできることにフォーカスするんだ。それ以外のことについて、課題をみつけて嘆いたりしていても、仕方がないんだよ。自分の身の丈を超えて、生真面目に思い悩みすぎてはだめだ」
「肩の力を抜いて、リラックスして、こう思うことも大切なんだ。『これでいいのだ』ってね」
(p216)
前に松井秀喜選手の本を読んだ時に、コントロールできることとできないことを分けてコントロールできることに集中するっていう話があったのを思い出した。
小さくてもできることをっていうのは勇気をもらえる言葉やなーと思う。
■英語とゾンカ語とタミル語
ブータンではゾンカ語という言葉が使われているらしいけど、子供の頃から英語にも慣れ親しんでいるので両方話せる人が多いらしい。そうすると、だんだん言葉も混ざってくる。
例えば、「少し」とか「ちょっと」っていうのは「アツィツィ」と言う。また、丁寧語の場合は語尾に「ラ」をつける。そうすると、「ちょっと難しいですね」というのは「あツィツィ ディフィカルト ラ」というらしい(笑)。
言葉をマイルドにしたりニュアンスを伝えやすくなるということやけど、自分が一緒に働いている人達が話す南インドのタミル語も似たような感じのことがある。例えば、「○○です」っていうのは「○○ イルック」って言うけど、「涼しいです」っていう時は、「クールラー イルック」と英語の「cool」とちゃんぽんになっている。
このへんの混ざり方っていうのは面白いなー。ってか、よくよく考えたら日本語でも同じようなことあるよなと思った。このあたりの言語の融合っていうのは面白い。
■「もったいない」も大事やけど「食べたい!」と思った時に食べると幸せ
あと、羊羹を食べる話もかなりよく分かる!っていう共感があった。日本から羊羹等の日本食を持ってきていたけど大事にとっておいて、結局賞味期限が来たりしていたのが、途中からブータンの今を楽しむ文化に染まって「食べたい!」と心から思う時に食べるようになったとのこと。
この前半部分の話は自分もインドに行った時に同じようなことをやってて、結局帰る時になってもまだ残ってたりとかしてた…
著者はそういうふうにするようになってから、羊羹でも海苔でも梅干しでも、食べたいと思った時に食べる時に食べることで心から美味しく感じられるようになったとのこと。後から食べたくなっても、あの時食べたくて食べて美味しく感じられたのだからよしとしようと割り切れるようになったとのこと。
なるほどなと。自分も今度からはブータン式に改めようかなと思った(笑)
上記の他、特に興味深かったのがリーダーシップの話。国王を始め、政府系機関の中にもいろんな層でリーダーシップをしっかりとれる人材が育っているらしい。
本書ではこのあたりは軽く触れるにとどまっているけど、どうやって人材が育っているのかもう少し詳しく知りたいなー。
これでいいのだ」でいいのか?というところもありつつ、いろいろ学べる一冊やった。
なお、本書の内容についてのある程度話は、以下の連載からも読めるのでオススメ。
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