2013年2月27日水曜日

「引っかかる日本語」からコミュニケーションのコツまで学べる一冊

ひっかかる日本語 (新潮新書)

タイトル通り、毎日の生活の中で著者が「ひっかかる」日本語やコミュニケーションについて書いた文章をまとめたもの。元々はWebの連載で、1つ1つの章は短めでいろんな話題が扱われている。

最初の方が「ひっかかる日本語」について、いろいろな言葉についてどう引っかかるのかといった話が展開されているけど、途中からはコミュニケーション一般の話でむしろこっちの内容の方が良かった。

ひっかかる日本語の話は、それはそれで1つの視点としては分かるけど若干いちゃもんのような感じがする。むしろ、途中からのコミュニケーション関連の話は、さすが元アナウンサーという話のプロとしての視点が活きていて面白かった。


■ひっかかる日本語
「ひっかかる日本語」として紹介されているのは、例えば以下のようなもの。
「いつもきれいに使っていただきありがとうございます」

これについて、著者は、実際に行動をとる前に先取りして感謝をしている強引なコピーだと断じている。例えば、誰かと飲みに行った時に勘定の前に、「いつもおごってくれてありがとう」と言われたら、「それって、俺に払えってことか!?」とちょっとむかつくのではと述べられている。

ただ、こういうのは定型文のようになっているので、著者自身も引っかかる方がひねくれているのかもしれないとは認識している。

こんな感じでたくさん例が並べられている。気にし過ぎと言えば気にし過ぎと思うけど、普段何気なく通り過ぎているものも多いので、なるほどと感じるものも結構ある。

例えば、「0」を「ゼロ」と読むか「レイ」と読むかとか。「ゼロ」は英語、「レイ」は日本語らしい。言われてみればなるほどと思うけど知らんかったー。

あとは「1LDK」は「ワンエルディーケー」なのに「2LDK」はなぜ「にエルディーケー」なのかとか。どうでも良いと言えばどうでも良いけど、こういうのを突きつめるっていうのはそれはそれで学べるところもある。


■脱帽する日本語
第1章の「ひっかかる日本語」に続いて第2章は「脱帽する日本語」という話。話し上手、質問上手等コミュニケーションがうまい人はどこがすごいのかという話が具体例を挙げて語られている。

個人的には第1章よりもこっちの方が断然面白かった。第1章がしっくりこない人でも第2章はオススメできると思う。

具体的な話の内容は、例えば、池上彰さんの説明はなぜ分かりやすいのかとか、吉田豪さんはなぜ相手の話を聞きだすのがうまいのかとか、カリスマキャバクラ嬢は何がすごいのかとか。


■相手を好きになって肯定する
特に吉田豪さんのインタビューの手法の話は面白かった。まずは、事前取材で徹底的に相手のことに関する資料を読み込み、自分にとって「ここはおもしれーなあ、好きだなあ」と思えるところを見つけておく。

その上で、インタビューでも相手の良いところにフォーカスする。吉田さんは次のように述べているとのこと。
「僕のインタビューは、相手の良いところを徹底的に探して、そこを肯定していく作業です」(p108)

著者の梶原さんは、これはまさにカウンセリングだ!と述べている。相手が突飛な話をしてきても、それを否定するのではなく面白がってのっかっていく。しかもそれを心からやる。

だからこそインタビューされている側がいろんな話をするのかということが分かって参考になった。


■質問でクレームを防ぐ
もう1つ印象に残ったのが、梶原しげるさんの知り合いのフリーのブックデザイナーで「質問上手」な方の話。「教えを請う」質問形式で作り上げることで、相手の無用なクレームを防ぐというやり方を実践されている。

依頼してくる編集者からは、大ざっぱでかつプレッシャーがかかるような注文が来たりする。
例えばこんな感じ。

「思わず客が手を伸ばす親しみの湧く感じ。とにかく他の本に埋没しないのがいい。だからといって、あまり奇抜なのもねえ……。その辺りよろしく。売れるかどうか表紙次第だから」(p100)

これに対して、サンプルを描き上げて「こんなのでどうです?」と見せると大抵ボロクソに言ってきたりする。

そこで、質問して具体化していく。パソコンだけでなく、様々な素材と大きさの紙、筆記用具等々を持参して、こういう感じで質問。

「本はどの大きさですかね? こちらですか? 色の感じは、このようなピンク系もありますし、暖色だとこんな感じになりますが? 書体も何種類か選んでみましたが、ご覧になりますか? 全体のパターンもたたき台としてお持ちしています。どういう方向がいいのか、ご教示いただきながら最良のものを作っていきたいと思いますが、いかがでしょうか?」(p100-101)

「ご指摘いただけますか?」
「一緒に考えていただけますか?」
「これなんかどうでしょうか?」
という姿勢で問いかける。

「出入り業者」が「プレゼン」をしに来ているのではなく「相談」「教示」「アドバイス」を頂戴したいという姿勢で見せることでスムーズにいくという話。

こういう姿勢を続けていくことで、次第に編集者のコンサルタント的役割を果たし、影響力が大きくなるということ。

なるほどなーと思った。自分の場合、イラッとして文句言ってしまいそうやからこの粘り強さと質問の仕方は見習いたいと思った。


■カリスマキャバクラ嬢に学ぶコミュニケーション
他にも印象に残ったのが山上紗和さんというカリスマキャバクラ嬢の方の話。著者も「ビジネスパーソンの見習いどころ」(p118)と言っていたけど、確かに参考になるところが多い。

例えば以下のあたり。

周囲への気遣い
「お店全体に支えられてのナンバーワンですから。今いるところは大箱で(店が大きくて)在籍百人以上。こういう業界だからいろんな人を観てるんです。表ではいい顔してても、バックヤードにいるヘアメイクさんに当たり散らす人。ボーイさんが注文の品をちょっとでも遅れて持って来ると『なにやってんのよ!』ってお顔しちゃう人。こういう人は大抵伸びませんね。みんなに協力してもらえませんから」(p117-118)

敵対する人をどうするか
「私の場合は私を敵視するような人を、まず私の席に呼んで場内指名をとらせてあげるようにするんです。私と意地張り合ってるより仲間になっておいた方が得だなって思わせる。その方が店全体の雰囲気も良くなるし、私も働きやすいし」嫉妬するやっかいな相手を、憎んだりいじめ返したりするのは簡単だが、あえてメリットを与えて仲間に取り込む。」(p118)

話を聞く
「お客さん達は、話を聞くよりも、自分の話を聞いてもらう方がずっとお好き。話すキャバ嬢より聞くキャバ嬢の方が出世する」(p121)


こんな感じで、「引っかかる日本語」の話とは別に、話す、聴くというコミュニケーションの話があって、そちらの話は結構参考になるポイントの多い一冊やった。

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