2012年11月13日火曜日

「虚妄の成果主義 日本型年功制復活のススメ 」に見る見通しの重要性


虚妄の成果主義―日本型年功制復活のススメ

 著者は、過去10年以上にわたって、年棒制の導入や成果主義の導入に対して一貫して異を唱えてきたという方で、日本型年功制を推奨している。

第1章が、成果主義の問題点や、日本型の年功制の利点について述べていて、講演等で話してきた内容が元になっている。2章以降は理論的な話が中心で、動機付けの理論等を幅広く紹介している。

■日本型の人事システム―次の仕事の内容で報いるシステム
著者は、日本型の人事システムの本質について、次のように述べている。

「日本型の人事システムの本質は、給料で報いるシステムではなく、次の仕事の内容で報いるシステムだ」(p4)

このあたりの話や、成果主義の問題点については、以前読んだ「<育てる経営>の戦略」で述べられていることとほとんど同じ内容。


この本の内容については上の記事にまとめ済みなので、それ以外で印象に残ったことを記しておく。


■見通しの重要性
1つ面白かったのが、見通しの重要性。2つ事例を紹介しているけど、まずトヨタの事例。

戦後、すぐに、トヨタでは3年以内にアメリカの生産性に追いつくという目標を打ち出す。この時、アメリカの量産工場の生産性は約10倍と言われており、実際の格差はかなり大きかった。

結局3年ではムリだったものの、この目標を掲げ続け、1955年までの10年で、アメリカの自動車メーカーに生産性だけは追いつく。

著者は次のように述べている。

「途方もない無茶な目標でも、しかるべき人がしかるべき時に宣言すれば、そしてある程度の長期にわたって変更撤回されなければ、目標は人々の迷いを取り払い、人々を元気づけ、人々を方向づける」(p223)

もう1つ著者が紹介しているのが、心理学系の経営学者ワイクという人が紹介している例。

ある舞台が、アルプス山脈で軍事演習をしている際に吹雪で動けなくなった。その中で、隊員のポケットの中にあった地図に勇気づけられて、吹雪を耐えぬいて無事に生還。

しかし、戻ってきて地図をよく見てみると、舞台がいたアルプス山脈の地図ではなく、ピレネー山脈の地図だった。

これを受けて、著者は次のように述べている。

「雪道に迷った時には、誤った地図でさえ行動の指針として役立つ可能性がある。
 すなわち、それが最適であるかどうかはあまり重要な問題ではない。達成度も関係ない。将来の見通しが立つこと自体に、経営的観点からはある種の意義が存在する。混乱しているときにはどんな見通しでも有効である可能性がある」(p223)

こういった例に関連して、日本型の年功制は、将来への見通しを立てる上で有効だと述べている。

「未来!未来!未来!
 未来には力があるのだ。日本型年功制は、その「未来の持つ力」を引き出すために設計・運用されてきた。そのことをよく見ておきたい。」(p182)

見通しを立てて、それをメンバーに伝えるっていうのはリーダーの重要な役割の1つやろなー。例えそれが間違った見通しであっても、明確で揺らがない見通しを打ち出せるかどうかっていうのは鍵かも。


■日本的経営の評価をめぐる右往左往
あと、日本型の経営について、戦後から評価が上がったり下がったりいろいろしているけど、それは海外からの評価に右往左往しているだけだと述べている。

「実は、典型的な日本企業の現場の姿は、ここ半世紀の間ほとんど変わっていない。にもかかわらず、このように日本という国と日本経済に対する国際社会での評価によって、日本的経営に対する評価は大きく揺れ続け、評価をめぐって右往左往してきたのである。悲しいことに、日本企業のことを一番身近で一番よく知っているはずの日本国内での評価が、ただ海外での評価に追随してきただけなのだ」(p63)

このあたりについての著者の主張は頷ける。単に外からの評価を鵜呑みにするだけじゃなくて、やっぱり自分達がどう考えてどういう制度をとっていくかが大事やよなーと思った一冊やった。

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