2012年11月23日金曜日

「もっといい会社、もっといい人生」という発想を超えていくために


もっといい会社、もっといい人生―新しい資本主義社会のかたち 

著者のチャールズ・ハンディという方はヨーロッパを代表する経営思想家で、イギリスのピーター・ドラッカーとも呼ばれているらしい。その著者が、資本主義や仕事、人生について語った本。

■もっといい会社、もっといい人生を超えて
この本は、タイトルだけを見ると「もっといい会社、もっといい人生」を求めていこうとする人向けの内容に見えるけど、むしろ逆で、「もっといい会社、もっといい人生」にとらわれないで充足できる人生を過ごそうというメッセージ。

原題は
「The Hungry Spirit: Beyond Capitalism - A Quest for Purpose in the Modern World」

直訳すると
「飢える精神:資本主義を超えて - 現代世界における目的を求めて」
という感じなので、どちらかと言うと、「もっといい会社、もっといい人生を超えて」っていう感じの内容。


■新しい資本主義社会のかたち
テーマとしては、資本主義、会社や仕事、人生といったところ。経営思想っていうよりは、自己啓発的な感じ。

「本書の論点は、私たちは心のなかでは自分を超える、もっと大きな目的を見つけたいと思っているということ」(p15)らしい。

訳者あとがきでも、
「幸せってなんだろう」
「自分の会社人生はいったい何なんだろう」
「経済的繁栄ってなんだろう」
といった問いに答えてくれる本だと書かれている。

同じく、訳者あとがきでの要約が内容をよくあらわしている。

「個人としての幸せと会社人としての成功はえてして両立しないと考えられがちだ。また、社会の発展と企業の成功は無関係で、企業はただ競争に勝てばいいという風潮が蔓延している。だが、ハンディは個人と企業と社会の成功はすべて結びついており、その要点は自己主張と責任感のバランスだとする。この延長線上に「新しい資本主義社会のかたち」はあるのだ」(p271-272)

こんな感じなので、日本人にはなじみやすいということ。自分は読んでいて、そんなに目新しい話はなくて、むしろ、そうやよなーっていう内容が多かったけど、それは、元々日本人的な発想に近いのかもしらん。本の内容でも結構日本について言及されている。

しかし、日本礼賛というわけではなく、日本で遅れている部分はあって、そのあたりをバランスよく取り入れていくのがいいという感じ。

要するに、お金だけじゃダメだよねーっていう感じの内容で、別に反対するような内容ではないけど、それをカバーするのに個人の責任感とかそこに委ねてる感じなので、果たしてそれだけでいいのかなーっていうのは若干疑問が残る。


■人生の成功
ただ、人生の成功の定義についていろいろ参考になる言葉や例が紹介されている。
このへんの言葉とかは結構いいなーと思った。

「禿げていようと、老いていようと、太っていようと、貧しかろうと、成功していようと、苦労していようと、何も弁解したり否定する必要はなく、あるがままの自分を受け入れられるときが来るだろう。」(p101)

「よく大笑いができ、知的な人々の尊敬と子供の愛情を得て、真面目な批評家の評価を獲得し、不実な友人たちの裏切りに耐え、美を鑑賞でき、他人の最良の点を見出し、世界に健康な子供や庭いじりや社会条件の向上といった形でいささかの改善を残し、あなたが生きていたお陰でたとえ一人でも息をつくのが楽になったと知る。こうしたことが、つまり成功ということだ」(p117)
―十九世紀米国の思想家ラルフ・ウォルド・エマーソンの成功の定義


■「所有する」という概念
あと、「所有する」ということについて考えさせられる例がいくつか紹介されていた。

1つは、南太平洋上のノーフォーク島という小さな島での滞在で感じたことの話。

この島の人口は1500人くらいで、ほとんど自給自足で暮らしている。小さな島なので車もほとんど必要ない。みんな知り合いだったり親戚だったりするので、社会的地位もあんまり意味が無いし、生活できるのに十分な仕事しかしない。

「温暖な気候で快晴の日が多く海岸は美しい。「稼ぐ」「所有する」「活動する」といったことさえも問題ではなく、ただ「生きる」ことだけが大切なのだ」(p126)

もちろん、著者自身も「そうした土地でずっと生活することを考えると、正直言って、大変な戸惑いを感ずる」(p126)って言ってて、単純にこういう生活が良いとは言えんとこはあるけど、人生の中で立ち止まって考える際にはいいかも。

もう1つ紹介している例が、スコットランド人の大地主の人が、アフリカ人の友人を自分のところに泊めた際の会話。

その地主の人が、

「さあ、もう私の所有地だ。見渡すかぎり、私の所有している土地だ」(p168)

と言ったところ、アフリカ人の友人は当惑して次のように言ったとのこと。

「僕にはわからないね。どうやって山を所有することができるのかね。山は大地に属しているし、大地の上にいま生活している人々と将来生きる人々のものだろう。君が言いたいのは、一種の管理人として、しばらくその世話をしているという意味だろう」(p168)

確かにこういう見方もあるよなーと。まったく所有しないで生きていくのはそれはそれで大変やけど、所有するということにとらわれすぎてもなーということを感じさせてくれる例やった。

そんな感じのトーンの話がつらつらと続くので、そんなにわくわくするという感じではないけど、今の社会とか経済のあり方とか、自分の人生とか会社とか仕事とかについて考える際に、1つの考え方としては参考になる本やないかなーと思った。

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