2012年11月18日日曜日

「ハーバード流“NO”と言わせない交渉術」に学ぶコミュニケーションのコツ


決定版 ハーバード流“NO”と言わせない交渉術

「交渉術」と銘打っているけど、テクニック的な話というよりかは交渉に臨むにあたっての考え方が中心。

交渉という場面に限らず、コミュニケーションとか相互理解が必要な場面全般で参考になる考え方が結構ある。


■建設的な話し合いのための3点セット
建設的に話し合いを進めていくために身につけておきたい交渉姿勢の3点セットとして次の点が挙げられている。


  1. 交渉相手の見解を認めてあげること
  2. 次に自分の考えをはっきり主張すること
  3. そして、同じように両者の間の食い違いは必ず解決できるという楽観的な見解もはっきりと示すこと
このあたりは、やはりコミュニケーション全般で役立つはず。

あと、特に交渉に臨む際の考え方で良いなと思ったのが、交渉は勝ち負けではなくて相手と一緒に相互に満足できる解を探す取り組みであるということ。

「交渉は「勝つか負けるか」のサバイバル・ゲームではない」(p29)

「すべては、そこから始まる。けっして「勝利」を目指すべきではない。代わりに「相互満足」を目指すべきなのだ」(p308)


■相手の立場になり、相手の利益を考える
特に印象に残ったのが、3点セットの1つ目でも述べられていた、相手の見解を認め、相手の立場になって考えるということ。

自分だけが正しいと考えるのではなく、次のように考えることが重要。

「相手も相手なりの立場や経験に基づいて正しく、あなたもあなたなりの立場や経験に基づいて正しい」(p137)

この考え方をベースに交渉してきた著者は次のように述べている。

「数多くの交渉の場で、私は星の数ほどの人間と相対した。そのたびに私は相手の立場に慣れ親しみ、相手の運命と境遇のうえにわが身を置き、相手が生きている環境の中で暮らそうと心がけた。すると相手の運、不運を実感として体験し始めることができるのだ。そうなれば、もう自分の立場や見解を相手に押しつけることなどしたくなくなる。相手にとってベストだと思うことを考えてあげ、それを受け入れるように説得するようになったのだ。そして、そのことはつねに私自身の利害と一致した」(p222)


■自分に不利でなく相手に有利な条件
もう少し具体的な交渉の技術としては、自分にとって低価格、相手にとって高利益になる条件を提示する方法が挙げられている。

これに関連して紹介されていた例が参考になった。

「あるアメリカ人ビジネスマンがモスクワまで商用旅行をした。空港に降り立った彼は、宿泊先のロシアホテルまでタクシーを利用することにした。
片言のロシア語で、彼はタクシー運転手にホテルまでの料金を聞いた。
 「四十ルーブルです」
と運転手は答えた。それは、その当時のレートで換算すると六十ドルにもなる。いかにも高すぎると思い、他の運転手にも同じことを聞いてみたが、その返事はやはり、
 「四十ルーブル」
であった。
 そこで彼は、空港ロビーまで引き返して〝ドル・ショップ″で二十ドルのウオツカを一本購入した。そして、それを最初に接触したタクシー運転手に示し、料金代わりでどうかともちかけた。すると、相手は青んで承諾したのである。なぜか。その理由はロシア人たちにとって、そのウォッカを手に入れるには街の酒店の前で長蛇の列をつくり、四時間も待たなければならなかったからだ。ウォッカは、アメリカ人ビジネスマンにとっては″低価格″であったが、ロシア人運転手にとつては〝高利益〃だったのである。そして、ロシア人にとってタクシーをロシアホテルまで運転していくのは〝低価格〃であったが、アメリカ人ビジネスマンにとっては〞高利益〃だったというわけである。」(p241-242)


■相手と一緒に考える
もう1つ良いなと思ったのが、相手を「敵」ではなく「パートナー」としてみなす考え方。

例えば、夫婦間でのクリスマス休暇の過ごし方で、妻は妻実家に帰りたい、夫は夫の実家に帰りたいと考えていて希望が一致しない場合にどうするか。

お互い言い張っているだけでは解決しないしケンカしたまま。

自分の希望を言い張るのではなく、自分の希望を一つか二つ挙げつつも、相手にも他の案を求める。その時に、「何か良い案はない?」といった形で問いかけて一緒に考える。

著者は、相手との会話をブレーン・ストーミングに変えていくという表現を使っている。

「要は、相手との会話を〝プレーン・ストーミング〞に変えていくことである。可能なかぎり実現の可能性がある選択肢を話し合いの中で協力しながらつくり上げていく。そのためには相手の立場に立って、その主張を〝再構築〞し、数ある選択肢のうちの一つに加えるようにする姿勢が大切になってくる。」(p172)

この例に限らず、使える言い方や提案方法としては次のような例も挙げられていて、なるほどと思った。

「そうそう。そこが問題なんだ。君だったらこの提案を成功させるためにはいったいどうすればいいと思う?」(p188)

「どうしたらもう二度と同じようなことを起こさないですむか、二人で考えましょうよ」(p192)

「私たち、いったいどうしたら予算内にうまく収まるように、生活を切り詰めていけるかしら」(p192)

そして、王貞治さんの考え方の例も紹介されていて、これはとても印象深かった。

「〞日本のベーブ・ルース〞と呼ばれた偉大なるホームラン打者、王貞治が語ったバッティングの秘訣をご存知だろうか。彼はマウンド上から豪球を投げ込んでくる相手投手を″パートナー〞と見なしていたという。なぜならば、投手が自分に向かって一球一球ボールを投げてくれてはじめてホームランも打てるから、というのである。敵意をむき出しにして力の限りに投げ込んでくる相手投手は、この偉大なるホームラン王にとってはけっして敵ではない。ホームランを打つ機会を与えてくれる威力者〃なのだ。一球一球の投球は、彼にホームランを打たせようとする一回一回のチャンスというわけである。
 彼と同じように、あなたも敵意をむき出しにして強硬に自分の立場を次々と突きつけてくるしたたかな交渉相手を〝パートナー″と見なせばいい。彼が繰り出してくる数々の卑劣な戦術も、強硬な自己主張も、すべてあなたが最高の合意を得るために与えてくれているチャンスなのである。」(p206)

相手を「敵」とみなしたら、思い通りに交渉やコミュニケーションが進まなかったらイライラしっぱなしやろうけど、一緒に課題解決する「パートナー」とみなして接すれば前向きに考えられる気がする。

細かいテクニックが学べる本ではないけど、考え方の面では参考になる内容が結構詰まっている一冊やった。

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