2012年11月12日月曜日

「リーダーシップ」の条件は胆力と大局観(あと人心掌握力)


リーダーシップ―胆力と大局観 (新潮新書)

菅直人首相の辞任と野田首相の誕生のタイミングで書かれた本。著者はイスラムの専門家やけど、「幕末維新に学ぶ現在」というシリーズを書いているように、日本史にも詳しい。

特に日本史や世界史の歴史の中の人物像からリーダーに必要な心構えについて書かれている。


■リーダーの条件
副題に「胆力と大局観」とあるように、結構この2つが重視されているけど、リーダーの条件は3つにいきつくのではないかと述べている。
  1. 総合力
  2. 胆力
  3. 人心掌握力
この中で、特に、1つめの総合力=大局観の話が印象に残った。


■総合力=大局観

この総合力というのは、著者の言っている内容としては、大局観、全体、全局を見通す力等に言い換えらている。具体的にどういった場面で必要になってくるかというと、例えば、東日本大震災後の政治課題の対応。

被災地の復興や原発事故への対応は最重要課題ではあるが、一国の首相としてやることはたくさんある。国内の経済問題だけでなく、外交戦略もあるし、取り組むべき課題はさまざま。

その中で全体観を持って、優先順位をつけたり相互の関連を見極めながら、施策を方向性を示したり施策を進めていったりしなければ、全体的な原動力も失われてしまうという話。

このテーマに関連して、「危機に直面したリーダーとは」というタイトルで一章を割いて危機対応について書いている。

政治家の自然災害処理に着目し、以下のような例をとりあげて、その時々の政治家の危機対応を紹介している。

  • 明暦大火と保科正之
  • 安政大地震と堀田正睦
  • リスボン大地震とカルヴァーリョ
その上で、「宰相の資質と課題」という項もあり、現代への学びについても述べられている。


■全体観を持っていた司令官の例―山口多聞

全体観に関する例の1つとして、ミッドウェーの海戦で司令官として戦い、戦死した山口多聞という方について一章を割いて紹介している。

ミッドウェー海戦の時に、ミッドウェー島を攻撃するために、攻撃機の爆弾を陸用のものに積み換えていたところ、当初所在不明だった敵の空母の位置が判明。日本の機動部隊の周辺海域にいる可能性が高いということが分かる。

そこで、山口司令官は、待機中の急降下爆撃機をすぐに発進させて攻撃するように上官の南雲司令長官に対して意見具申。

しかし、南雲司令長官は結果的にはこれを受け入れなかった。どういう意図だったかというと、「支援戦闘機のない急降下爆撃隊は、アメリカ軍グラマンの餌食になるのではないかという疑問」(p126)があったため。

結局、この犠牲を惜しみ、主力空母の上ですでに陸用爆弾を積んで出発待機していた雷撃機の爆弾を再び積み換えて、対艦用の魚雷に換装した。

著者も、これはその通りとしているが、その判断によって敗北を招いたとしている。

「支援戦闘機への補給を優先するあまり、甲板で待機完了した爆撃機の発進を後回しにして戦闘機を収容した。爆撃機も換装している間に、世界戦史上屈指の敗北を招いてしまったのだ」(p126)
この判断について、次のようにも述べている。

「もちろん南雲司令長官も発進の必要を理解していた。しかし彼は、制空支援のゼロ戦(零式艦上戦闘機)がミッドウェー基地攻撃で出払っており、それを欠いた爆撃機を出せば、(グラマン)の援護を欠いたアメリカ軍爆撃機をゼロ戦が次から次に撃墜したように、敵の餌食になることを恐れたのだ。南雲は小の慈悲にこだわり、山口は大の決心を取ろうとしたのである」(p124)

こうした例を引きつつ、著者は、全体観について次のように述べている。

「目前の悲惨に日を覆われて全局を忘れてはならない。これは洋の東西を通じ、いつの世にも変わることのない指揮官の統率である」(p127)


■取捨選択

こうした例を踏まえつつ、細部にとらわれずに全体を見て取捨選択をすることの重要性が挙げられている。

「菅氏に限らず日本の政治家に読んでもらいたい佐藤一斎の言葉を一つだけ挙げよと言われるなら、私はためらわずに「言志録」二八〇)の次の文をあげるだろう。
「一物の是非を見て、大体の是非を間はず。一時の利害に拘りて、久遠の利害を察せず。政を為すに此くの如くなれば、国危し」(或る一つの良し悪しを見て、全体の良し悪しを考えない。一時の利害にこだわって永遠の利害を考えない。もし為政者がこうであったなら国は危機である)」(p22)

上記は菅元首相を引き合いに出しているけど、その他にも、鳩山元首相の普天間問題への対応についても述べられている。

「普天間問題に限らず鳩山氏の政治手法に欠けていたのは、さまざまな事象や可能性を自在に寄せ集めながら編み合わせると共に、必要なら捨て去ることで政治目標に肉薄する迫力である。これは政治家に必要な技巧であるが、誰であっても経験から学ぶ他に術がない」(p159)

そして、次のようにもまとめている。

「結局のところ、政治家のリーダーシップに不可欠なのは、ある政策を実現するときには別のものを捨て去るか、ひとまず脇に置くことで、大きな目標や本質的な目標の達成に近づく能力なのである」(p162)

このように、政治家のリーダーシップについての話がメインやけど、著者自身の経験も踏まえて歴史家の仕事についても対比している。

「歴史家にも要求されるのは、人びとや物事の動機・態度・意図・出来事を順序だてて整理できる能力であろう。そして、歴史で重要なポイントを無駄なく指し示せる歴史家の仕事は、政治をできるだけ複雑にせず問題を紛糾させない政治家の営みにも似ている。」(p162)


このあたりは、政治家や歴史家に限らずに大事なところやないかなーと思う。「胆力と大局観」この2つを身につけられるようにしていきたいと思わせる一冊やった。


0 件のコメント:

コメントを投稿