2012年11月16日金曜日

「失敗学のすすめ」から失敗のプラス面への目の向け方を学ぶ


失敗学のすすめ (講談社文庫) 

「失敗学」を提唱する著者が、さまざまな「失敗」例を紹介しつつ、失敗の構造、失敗に対する考え方や取り組み方について述べている本。

一番大きなメッセージは「失敗のプラス面に目を向けよう」(p18)というもの。

特に日本では、失敗=恥という捉え方で人に知られたくないものとして扱われ隠されてしまうが、それだと次につながらない。

また、そもそも、失敗があるからこそ新しいものが生まれる。新しいことに取り組む時は必ずと言っていいほど失敗が生まれる。そこで失敗のマイナス面にとらわれて止めてしまうと新しいものは産まれない。

著者は次のように述べている。

「失敗は、新たな創造行為の第一歩にすぎません」(p286)

こうしたことを踏まえて、次のようにも述べている。

「失敗は誰にとっても嫌なものだが、人間の活動につきもので人が生きているかぎり避けて通れない。そうであるなら大切なのは失敗しないことではなく、失敗に正しく向き合って次に活かすことである」(p301)

失敗が起こらない、ミスがない前提の方がよっぽど不自然で、その前提でシステムや仕組みを設計すると失敗してしまう。であるならば、失敗やミスはある前提でそれにどう対処するか考えていったほうが良い方向に向かうということか。


■成功例の落とし穴
失敗に対する考え方だけでなく、成功例に関する考え方も参考になった。成功例に学ぶと言うやり方は賢いように見えるけど、うまくいかない。その理由について次のように述べている。

「お手本を模倣することでうまくいくと考えている人の多くは、やがてそれ以外の方法について「見ない」し「考えない」ようになる。さらには、よりいいやり方を探し求めることまでやめて「歩かない」ようにもなるが、その一方で時代は常に変化しているので、あるときの「いいやり方」がいつの間にか「ダメなやり方」に変わるということが必ず起こるからである」(p294)

確かにこれはあるよなー。イノベーションのジレンマにも通じるような話かな。


■客観的失敗情報は役にたたない
もう1つ参考になったのが、客観的失敗情報は役にたたないという考え方。一般に情報は客観的な方がいいとされるけど、実際に役立つのは主観的な情報という主張。

失敗した当人が、その当時に考えていたことや体験したこと、その時の気持ちといった生々しい話の方が失敗情報を伝える上では重要ということ。
遭難した時の報告書で、客観的な記述と主観的な記述でどう異なるか例を提示している。

客観的な記述の例
「〇月×日、入山から一時間後、出発地点から四キロ先にある分岐点に差し掛かったとき、登山者は不注意から選択を誤り、正規の道を外れてしまった。この日の気温は、標高八百メートルの地点で摂氏二十度、湿度は六五パーセント。午前十一時から一時間の雨量にして約十ミリ程度の雨が降り出し、雨具を持っていない登山者は雨に打たれるのを嫌うあまり、思慮なく森の中に入ってしまった。その後、雨が止むのを待たずに、いたずらに森の中を歩き回ってしまうという判断ミスを重ねたため、最終的に道を見失ってしまった……」
(p111-112)

主観的な記述の例
「〇月×日、山へ向かう。早朝、家を出るときに妻から小言をいわれ、気分がすぐれない一日のスタートとなった。そんな気分を晴らしたいため、山道ではつい大好きな草花観賞に没頭し、一本道だったこともあっていつもは絶対に手放したことのない地図をよく見ずに歩いてしまった。暑さを感じ始めたころ、ある分岐点にさしかかったが、一方の道はその場所から下っていたため、地図を開いて検討することもなく迷わず上りの道を選ぶ。しばらくすると夕立のような激しい雨が突然降り始めたので、これを避けるために道を外れて雨がしのげる大木を探して森の中に入ったが、やみくもに歩くうちに方向がわからなくなってしまった。途中、森の中でキノコを見つけ、それに気をとられたのがまずかった。雨具を忘れたことを心底後悔しながら、その後は雨が止むのを待てずに遊歩道を探しながら森の中を歩き回ったものの、数時間経っても道を見つけることはできなかった……」
(p112-113)

この2つの記述のうち、より身近な例として実感できるのは後者の方。無味乾燥な客観的な記述からは教訓を引き出すのが難しいということで、主観的な情報のほうが役に立つと述べている。

「人々が本当に欲しているのは、その失敗に際してその人が何をどう考え、感じ、どんなプロセスでミスを起こしてしまったかという当事者側から見た主観的な情報」(p114)

こうしてプロセスや考えの経緯が分かることで、報告書だけでは見えない背景の要因も見えてきやすくなるのかなーとも思った。


■ハインリッヒの法則
あと、今ではよく聞くようになったけど、ハインリッヒの法則についても述べてあったので、メモも兼ねて簡単にまとめ。

「一件の重大災害の裏には、二十九件のかすり傷程度の軽災害があり、さらにその裏にはケガまではないものの三百件のヒヤリとした体験が存在」(p87)しているというもの。

失敗にも同様に「失敗のハインリッヒの法則」というものがあるということで以下のような図が紹介されていた。
「失敗学のすすめ」p87

本書をまとめた動機として著者は次のように述べているけど、その想いが伝わってくる一冊やった。

「人の営みを冷たく見る見方からは何も生まれず、暖かく見る見方だけが新しいものを生み、人間の文化を豊かにする。失敗は起こるものと考え、失敗に正しく向き合って次に生かすことが重要で、同じ失敗を繰り返さないためには失敗した当人に優しく接して勇気付けたい、翻って、失敗を無視し、隠し、責任回避するような風土を少しでも改めたい、と考えて本書をまとめた」(p290)

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